『透析を止めた日』堀川惠子/講談社
『あらゆることは今起こる』柴崎友香/医学書院
『一場の夢と消え』松井今朝子/文藝春秋
「私たちは確かに必死に生きた。しかし、どう死ねばよいのか、それが分からなかった」。著者の言葉が刺さる。『透析を止めた日』は、透析患者の終末期医療をめぐるノンフィクションであり、“生の一部としての死”について深い思考を促す1冊だ。
前半は「私たち」、つまり血液透析患者として壮絶な日々を送り、7年前に亡くなった夫と著者の道のりを綴る。妻、ジャーナリスト。2視点によって詳らかにされる、当事者としての体験と透析医療の諸問題。後半では、日本各地で透析医療に携わる医師や看護師に広く取材、その現況と可能性を展望する。巨大な医療ビジネス市場が絡む「透析大国」日本で、終末期の患者の緩和ケアが置き去りにされ、塗炭の苦しみを強いて人間の尊厳が傷つけられる状況を、著者は正面から世に問う。「一足飛びに『死に方』だけを整えようとする思考ではダメなのだ」と質(ただ)す言葉には、医療問題を超え、個人個人が生き方を省みる力が宿る。
語られてこなかった言葉、語りにくい言葉に接するとき、いろんな感情が押し寄せる。“そうだったのか”“わかるかも”“よくわからない”……しきりに揺さぶられる。『あらゆることは今起こる』は、医学書院「ケアをひらく」シリーズの1冊。作家である著者は3年前、発達障害の診断を受けたことを契機として、意識の流れ、微細な感覚、日常に起こった変化などを綴り始めた。他者とは「世界を認識する仕方が違う」という明らかな意識。これまで長く愛読してきた著者の小説の核心に触れる心地を覚えたが、しかし、いまも揺さぶられている。
とりわけ印象に刻まれた長編小説として、『一場(いちじょう)の夢と消え』を挙げたい。日本の芸能文化の礎、近松門左衛門の生涯を描き切って圧巻。古典芸能に精通する著者にしか到底描き得ない緻密な時代背景や浄瑠璃、歌舞伎の世界の細部。そのうえで、近松そのひとに肉薄する小説の虚実皮膜にすっかり心を奪われた。
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source : 文藝春秋 2025年1月号