
■企画趣旨
デジタルテクノロジーの進化、予測の難しい政治・経済・社会の変動によりビジネス環境は目まぐるしく変化をしています。変化をいち早く理解し、戦略に取り込み、実践をしていけるかどうかがビジネスの成否を分けるといっても過言ではありません。こうした中、企業の「利益を生み出す原動力」であり「顧客の課題を解決し価値を創出する」営業部門は、自社のみならず、顧客の成功をも担う重大な責務のもと、日々進化していくことが求められています。
単に商品やサービスを販売するだけではなく、顧客との信頼関係を構築し、企業価値を最大化するために、営業組織として多様なスキルの習得や戦略の構築が不可欠となります。
戦略面においては、顧客獲得率やリピート率などデータに基づく現状分析、顧客の理解不足、クロージングにおける躓きといった営業プロセスにおける課題の顕在化、スキル面ではデジタルツール活用への理解と浸透、モチベーション、顧客ニーズの把握などを徹底し、課題を克服していくことが求められています。
昨年3月と11月に開催をし、大変多くの反響と高い評価をいただいた「営業戦略総整理」の第3弾では、営業プロセスの最適化、営業組織全体のスキルアップデート、顧客との関係構築、データドリブンな営業の実践、チームモチベーションの維持と向上、戦略実行後の検証と改善におけるマネジメントの役割に焦点を当て、2025年の営業組織のあるべき姿について有識者の講演を通じ考察した。
■基調講演
2025年度の営業戦略を総整理
~ 絶対達成:お客様の意志決定ラインを動かす、デキる営業組織の勝ちパターン ~

株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ
代表取締役社長
横山 信弘氏
企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。15年間で3000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラム、昨今はYouTubeチャンネル『予材管理大学』を通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。
◎絶対達成のための営業戦略、組織改革、人材育成について
営業は“ダイエット手法”のようなものだ。(1)時代によって流行がある(管理会計や生産管理にはない)。(2)他の手法を否定することもある(バナナダイエットはダメとか)。そして、(3)だいたい「原理原則」を守ればなんとかなる(横着なだけ)。
今、営業組織に必要なのは、営業目標を絶対達成させる組織にすること。安定して目標達成できていない/できる営業とできない営業の差が激しい/営業の定着率が悪い、といった問題に直面している組織は多いだろう。
どんな仕組み・方法があれば絶対達成できる営業組織になるのか?戦略に沿ったマネジメントの仕組み・方法に変えることだ。(1)スキルアップは大変であり時間がかかる (2)リーダーシップを発揮させてもその場しのぎになる (3)マネジメントの変更なら負担も時間もかからない、と私は考える。
まず(1)の根拠の詳細。簡単にスキルアップはできないし個人差が激しい(若手)/変化に耐えられる人が少ない(ベテラン)/目に見える成果が少ないので途中でやめる(経営陣)。(2)では、精神論になりがちでリーダーの自己満足で終わる/「やる・やらない」のコミットしかできない/意識とスキルの高いメンバーにしか効き目がない。このようになかなか難しい。
よって(3)が重要なのだ。営業の成績や経験に関係なくできるし、静的なものなので反射神経は必要ない。なにより、デジタル技術の恩恵を強く受けられる。デジタル技術によりマネジメントの仕組み・方法を変えるのが、現代においては効果的なのである。
◎絶対達成のための営業マネジメント手法について
マネジメントとは何か?部下育成や、組織の目標達成のための仕組みづくり、チームビルディングではない。マネジメントは組織を対象としておらず、個人でできる。意識改革やスキル開発は含まれていないのだ。マネジメントは「管理」であり、戦略に沿ってリソースを効果効率的に配分することである。
例えば在庫管理とは、顧客の需要に対し過不足なく製品を供給できるよう適切に在庫を調整すること。原価管理は、原価の設定が適切かどうかを分析し原料や製造工程を調整することだ。タレント(芸能人)のマネジメントを想起してほしい。短時間労働、人手不足の時代には、リソースを効果効率的に配分する=適切に調整することが肝要である。昨今、企業での部長、課長はある意味タレント。タレントは効率良くどんどん現場に出すべきだ。
ボトルに大きな石⇒小石⇒砂の順番で入れると最も効率がいい(多く入る)ことは広く知られる話。目標達成させるためにリソースを効果効率的に配分すること、これこそがマネジメントの基本である。
限りある人生において、大切なこと(大きな石)は優先して行うべきだ。加えて、働き方改革で労働時間が減少していく。つまりボトルが小さくなっていく。引合い対応がメインだと、どんなに人や時間を増やしても目標達成しない。よって、適切に調整するマネジメント力はますます重要視されるようになる。
ここで効果的なのが「予材管理」だ。これは生産管理や在庫管理、原価管理、管理会計と同様に、体系的に(可能なら若いころから)学んで実務に活かすべきだ。ポテンシャルある予材(予め仕込んでおく仮説)を優先することで、効率的に目標が達成できる。目標の2倍の予材を仕込むことで安定して達成する手法をぜひ学んでほしい。

上記スライドの「見込み」「仕掛り」「白地」を組織で共有しつつ適切に調整していくのがマネージャーの仕事=マネジメントである。目標の2倍の予材を仕込むためには、予材資産(今期に縛られない中長期的な予材)が不可欠だ。
予材ポテンシャルがある営業先に定期接触して関係を構築・維持し、随時予材の入れ替えを行い、案件化しそうだったら優先順位を上げて攻める。予材ポテンシャル分析をして種まき・水まき活動を続け、随時、今期の予材に具体化させるのだ。こうした活動の際に「データベース」が重要になる。先述のようにマネジメントの変更を行い、デジタル技術の恩恵を受けるようにするのである。
当社の「予材ポテンシャル分析シート」「KPIカウントシート」「予材管理シート」などもその例。営業戦略をきちんと立て、これらを順次利用して(いきなり予材管理シートにいかない)リソースを効果効率的に配分する、資産ポートフォリオのように適切に調整・リバランスすることが肝要だ。当社の「予材配線図」「予材管理ダッシュボード」も参考にしてほしい。こうした資料は一枚にまとまっていて一覧性があることが重要。
繰り返すが、マネジメントとはリソースを効果効率的に配分すること、適切に調整することである。予材管理のメリットを整理すると、(1)シンプルなので覚えやすい、続けやすい (2)再現性が高く、どの業界でも活かせる (3)運用すればするほど複利効果が見込める。一方、デメリットは、(1)一発逆転を狙えない(ロマンがない)(2)淡々と継続する力が必要(スキルより習慣が大事)。
予材管理シートなどは当社HPから無料でダウンロードできる。どこのリソースをどう配分するか、そのためにどのようなテクノロジーが必要なのかを理解して営業戦略を立案・実行してほしい。
■課題解決講演(1)
営業DXは何から始めるべきか?
~ 事例から学ぶ、顧客接点データ×AI活用による収益の最大化 ~

Sansan株式会社
Sansan事業部 SOCソリューション営業部 兼 カスタマーサクセス部
シニアマネジャー
久永 航氏
大学卒業後、IT業界で10年強、SIや海外プロダクトマーケティング、クラウドサービスの立ち上げなどを経験した後、2009年にSansan株式会社へ入社。ソリューション営業、カスタマーサクセス部長を経て、15年にCIOとして社内のDXを推進。18年から新規DX事業の立ち上げに従事するとともに、顧客のDX推進を支援。21年より現職。
◎営業生産性を高める方法とは?
近年、営業分野でのデジタル活用が注目を集めている。見込み顧客の選定⇒アポイントの獲得⇒商談⇒クロージング⇒受注⇒顧客の維持・育成の各プロセスにおいて、ITツールの導入・活用が進む。
営業生産性を高める方法は、「売上の拡大」と「コストの削減」の二つ。それぞれの目標を設定し、収益の最大化を目指すことが重要だ。
※「梅野宿酒造」が、営業におけるデータ活用で年間1.5億円の売上創出をした事例紹介動画あり
売上拡大のカギは顧客との接点の活用である。受注件数を増やすには「アプローチ数」と「転換率」の向上が必要。そこで重要になるのが「接点情報」だ。顧客との接点情報を蓄積・データベース化することがアプローチ数と転換率の向上につながる。接点情報とは、人物情報と活動情報に大別される。前者は例えば、交換した名刺の情報/メールの署名情報/人事異動情報。後者は商談履歴/ウェブからの問い合わせ/社内の人脈やつながりの情報だ。
しかし、多くの企業が顧客との接点情報を十分に蓄積できていない。受注した取引先情報・契約情報や、見込み/失注先の案件情報は蓄積できているだろうが、それ以外の顧客との接点情報を社内に蓄積し一元化することがさらなる受注拡大につながる。すべての接点を取り込むことでアプローチできる範囲が広がり、社内の人脈を可視化することでアプローチのシナリオを立てられるからだ。
名刺管理から収益を最大化する「Sansan」は、接点情報を最大限活用できるプロダクト。人物や企業、活動に関する情報を全社で共有できるデータベースの構築で、さまざまなビジネス機会に気づけるようになり、営業のチャンスをさらに広げることができる。

顧客情報整備には大きな負荷がかかる。Sansanによる名刺やメール情報の蓄積でデータベースが自然に構築されていく。また、Sansanは100万社以上の企業情報を標準搭載しており、企業概要や従業員数、業績、企業動向などが調べられる。一部企業は役職者やリスクの情報までも掲載されている。重要なのは、こうした企業情報と接点の情報がきちんと紐付いていることだ。接点がある先方の部署・人物名と役職、接点がある自社社員の名前がSansan上で分かる。パイプが太い自社社員からの先方へのアプローチ戦略が立てやすい。
当社の例で言えば、経理・経営管理系部門向けの新規事業「Bill One」を拡販する際にもSansanをフル活用した。Sansan事業で接点があった企業からのBill Oneの受注は全体の6割となり、既存情報を最大限活用したクロスセルとなった(Sansanの契約はないが接点がある企業からの受注もそのうちの半分を占めた)。
創業以来、全社の接点情報をSansanに蓄積してきたからこそ、特定の人物の紹介依頼からアプローチまでが可能になったのである。
◎コスト削減のカギは顧客情報の一元化/営業活動におけるAI活用の可能性
マッキンゼーのレポートによると、営業担当者は提案準備などの「顧客関連の活動」に半分以上の時間をかけている。商談準備業務をいかに効率化できるか、かかる時間をいかに削減するかが生産性を上げる最大のポイントだ。先方担当者の基本情報や役職・経歴などの情報と、企業の基本・最新情報をSansanで効率良く参照する。顧客情報の一元管理が商談準備の時間短縮につながる。
AIを最大限活用するために必要なのは、データの量(網羅性)と正確性だ。これがあってこそ、機械学習やディープラーニングを経て生成AIが導き出すテキスト、画像、動画、音声などの正確性や広範囲性、オリジナリティにつながる。AIツールの機能や命令文(=プロンプト)の内容・形式も重要だ。
Sansanで蓄積した網羅的かつ正確な企業・人物データをツールとして活用し、営業戦略の策定やターゲット選定、業界・企業理解による提案力強化、定型業務の効率化につなげたい。例えばSansanの中には「営業ポテンシャル分析」というコンテンツがある。これは、業績状況をもとにした購買力と接点の分析から、とるべき営業戦略で企業を4つのカテゴリに分類する機能。アプローチの優先順位や営業戦略が決めやすい。
「AI営業ロールプレイング」は、入力された設定をもとにAIが業界動向や有価証券報告書を分析し、商談相手のプロフィールを生成。対話型AIを相手に、商談の流れを模擬演習できる。営業メンバーのスキルを底上げし営業生産性を高めることができ、営業研修にかかるマネジメント層の手間や時間も削減できる。
AI名寄せエンジンによる名刺データの連携、高度な名寄せ(データクレンジングを効率化する)、属性情報の付与(データ分析をしやすくする)=「AIによる“名寄せ”」もデータ活用の幅を広げる。営業DXは顧客接点のデータベース化から。接点情報の基盤構築がAI活用の土台となり、収益最大化の鍵となる。
■特別講演(1)
オムロンの営業DXの挑戦
~ 営業DXで取り組む“伝統的営業組織”からの変革 ~

オムロン株式会社
インダストリアルオートメーション ビジネスカンパニー
ソリューション営業本部 統括部長
木村 直弘氏
1999年オムロン(株)に入社。営業部門にて、車載電池業界やデジタル業界攻略リーダを歴任、2018年に第3営業統括部 統括部長に就任。19年人財戦略室 グローバルセールスナレッジマネージャーに就任。営業のナレッジマネジメント確立に向け、営業プロセスのグローバル標準化を統括し推進。21年より営業部門長と営業DXプロジェクト責任者を兼任しながら『セールスイネーブルメントの実現』に向け、国内の営業変革を進めている。
◎日本企業の営業組織が抱える課題/グローバルにおける営業プロセスの標準化
日本の製造業、中でも電気・機械は営業生産性が低い(マッキンゼーの資料による)。生産性が上がらないのは“伝統営業派ハイパフォーマ依存”と“国内営業の人員構造”が大きな課題だ。
データドリブンなソリューション営業に営業マネージャーが変化できていない。営業マネジメント手法も、営業支援(セールスイネーブラー)を重視し、日常学習で誰でも再現できる営業手法を身に付けなければならない。
当社は、日本を中心にグローバル各エリアごとにビジネスを拡大。営業データやプロセル、ツールが各エリアごとに異なっていた。2019年からナレッジマネジメントに向けた“グローバルでの『標準化』取り組み”を行った。営業プロセスを標準化することで“営業のナレッジ”を抽出し言語化。アカウントプランや提案書をグローバルで揃えたことで、ナレッジ蓄積&活用による改善が定着した。
具体的な4つのステップは(1)アカウントプラン標準化 (2)ナレッジマネジメント (3)営業プロセス標準化 (4)提案書の標準化、である。
(1) では、世界各国のアカウントプランBEST100選の分析からスタート。目的/攻勢/内容/フォーマットの4つの強化ポイント(分析の軸)から、Globalアカウントプラン21項目を選定した。強化ポイントは順に、顧客の課題解決/ストーリー性/顧客課題の深堀/グローバル標準化をそれぞれ重視・意識した。
スモールスタートとクイックヒット(予算ゼロ+プロジェクト2名体制)で、標準化したアカウントプランをエクセル展開、Globalで1万件作成しマクロで集計した。
(2) ナレッジマネジメントに必要な“言語化”された営業資産(標準アカウントプラン項目)から各項目把握の“勘コツ”を1万件抽出、項目把握ハードルの超え方を再現しやすく整理した。
(3) 業務プロセスの“標準化”とは「誰でも同じ成果を出しやすいように“特定の実行単位”で“手順”を定義すること」。あくまで標準であり、統一ではない。生産プロセスは標準化することでプロセスチェックを行い不具合が特定できる。これと同様に、効果的な(営業)業務プロセス実行をKPIによってセルフマネジメントする。営業プロセスの実行ログをCRM/SFAに蓄積していくことで“セ―ルスイネーブルメント”※の実現につなげる。
※営業組織の強化や改善を目的とした取り組み
◎日本国内における営業DX実践
営業DX=Sales Digital Transformationとは、デジタル技術を活用して、営業のビジネスモデルや営業業務プロセスを変革すること。それによって、営業の効率×効果を最大化し、営業生産性を飛躍的に高めること。当社内の認識をこれで統一した。
日本は特に営業のデジタル活用への感度が低く、営業生産性が世界的にも低い。IT先進国米国に比べSaaS導入スピードで大きく遅れ、上位役職者のITリテラシーの低さも要因だ。
国内営業生産性を強化する営業DXの4ステップは下記のスライドを参照。“名刺/SFAデータ活用”と“ナレッジマネジメント”を営業DXで推進、“セールスイネーブルメント”を確立することを目指す。

古い紙名刺を廃棄し、1年間で最新顧客名刺数十万件の最新データ化が完了。毎月1000件の顧客名刺情報を自動アップデートする仕組みを確立した。20名、3カ月でスピーディに効果検証し、全社展開に向けたプロジェクトチームを1カ月で構築。日常的な活用状況を実況中継しつづけた結果、1年でSansan定着率100%を実現した。
蓄積した最新名刺データと顧客情報DXツール機能を活用し、展示会誘客変革を実行。2023年の国際ロボット展では、コロナ前の前回比400%の新規顧客を獲得した。具体的には、One to Oneメール機能(Sansan)を利用し、営業一人一人が“心を込めた手打ち感”メールで、開封率400%となった。
営業コンテンツDXツールは検索革新も起こした。営業のあらゆるシーンで使える、蓄積されてきた1.7万ファイルに及ぶナレッジ(資料・動画)をYoutubeと同じユーザビリティで参照できるようにした。外出先でも面談中でも/モバイルでもサクサク検索/直感的に選択し即プレゼン可能、となった。なお、このツール導入~システム構築~コンテンツ移行は、数人で約1週間で立ち上げ完了。
セールスイネーブルメントに向けたきっかけづくりの一つとして、セールスイネーブルメント第一人者の社外ゲストを招いたディスカッションイベントを開催。全営業部門長+約60名がオフラインで参加した。
営業活動は、複合的に連鎖する6つのマネジメントの実行という極めて負荷の高い職人技が必要とされる。6つとは(1)アカウント (2)スケジュール (3)ナレッジ (4)商談 (5)スキル (6)成果、である。これらの複雑マネジメント・ジョブをデジタルで支援するのが、セールスイネーブルメントの目指す姿である。

当社グループ全体、数千人規模の“トータルセールスイネーブルメント”を今後は目指す。セールスイネーブルメントツールとPRM(Partner Relationship Management)ツールを融合した最適システムでそれを実現していく。常に“目指す姿”を戻り所とし、日本特有の復元力を阻止する。お金やリソースを過度にかけずにスタートし、機敏に対応し続ける。定着の臨界点を超えるまで粘り強く繰り返す。
■課題解決講演(2)
各社が躓くDXの課題
現場が動ける企業特徴データを利用した“営業の勝ち筋”の見つけ方

ユーソナー株式会社
代表取締役社長
長竹 克仁氏
2000年に新卒でユーソナー(株)入社。営業企画職などを経て14年7月に営業本部企画グループ執行役員に就任。19年2月に代表取締役社長に就任。営業本部全体の管理、カスタマーサクセスプロジェクト、マーケティングプロジェクトを推進。社長就任後、5年間でユーソナー社の売上を260%に成長させる。各種会合やイベントにも精力的に参加し、年間1000名を超える経営者、企業幹部とネットワークを作り、現在でも年間500件を超える商談を行う。データを活用したセールス、マーケティング活動で自社の売上を急成長させたノウハウを自社の営業担当だけではなく、パートナー、クライアントに広め続けている。
当社は、長きにわたって手作業と自動化双方による独自のデータ収集・処理体制を保持している。AI、データサイエンス分野の強化とともに、礎となる教師データの作成・調整には強力な人員体制であたっている。DXはデータ、人材、システムが3つの柱だが、当社はデータ分野を主戦場として事業を行っている。
DX=デジタルトランスフォーメーションは、「営業生産性向上」が一番の目的だ。そのために課題を設定し、CRM/SFAなどのツールを選定・導入しても、実際の運用・定着段階でのアカウント利用率は50%台という低さであったりする。
失敗のポイントは、ツールを今までの業務に合わせようとすることだ。例えば名刺管理ツールを導入する場合、名刺の他人や他部署への共有・閲覧を制限する人や部署がよくある。しかし、名刺(セールス情報)は会社の資産であり、個人の所有物ではない。
情報共有による生産性向上が目的なのに、従来と異なる【新しいDX環境】にトライしようとしているのに、現行環境運用を踏襲すると失敗する場合が多い。DXの目的は管理、分析をすることではなく、単位時間あたりの生産性向上や売上・利益を上げることだ。昭和的な時間ソリューションから脱却し、ワークライフバランスの実現もしなければならない。
ではどうするか?(1)ツール導入の前に運用フローを固める (2)現場が使いたいと思う仕組みを構築することだ。それには「インテント(興味・関心)情報」が有用。当社のツールは、自社HPにアクセスのある企業をリアルタイムで可視化し、オンタイムでのセールスフォローを可能にする。また、指定のキーワードに関連する外部サイトを閲覧している企業をリスト化することもできる。
例えば“商材A”を販売したいとする。営業ターゲットとなる潜在見込み顧客は“競合製品B”を調査・検索している企業だろう。当社のツールはまずその企業をリストにして可視化できる。次にそのリストの企業を既存と見込みに分ける。既存顧客企業は、リプレイスを防ぐためにカスタマーサクセス/サポート部門でフォローする。
見込み企業の中では、自社HPにアクセスがある=自社に興味を持っている企業の優先順位が高い。そこからさらに売上・利益・業種などを見つつ自社のターゲット企業だけに絞り込む。絞り込みにおいては、支払い不安や反社チェック、コンプライアンス・チェックも成約前の早い段階で行うことが重要だ。
会合・展示会等で名刺交換した場合、当社のツールを使えば名刺を読み込むだけで相手企業の業務内容、規模、信用度などを把握できる。モバイル端末で、その場で企業情報を確認できるのだ。直近のニュース、さらに資本関係や親会社、子会社との取引状況もその場で把握できる。安全・安心な取引の実現に寄与するのだ。
情報を営業に活用するためには、保有データの基盤構築が必要不可欠だ。取引先や見込みデータの精度が低かったり重複していると、正確な取引先管理ができない/重要顧客の漏れ/営業バッティング/正式社名の間違い、などが起こる。正しい情報を使わないと正しい戦略、戦術はなりたたない。“Garbage In, Garbage Out”である。
当社は冒頭で述べたように、長年データの収集・メンテナンスに努め、社名変更や移転等の加工情報や表記違いのナレッジを保有している。メンテナンス項目数は年間2000万だ。当社のツールは、BtoB企業の営業成果の最大化・営業効率化に貢献する。

DXを成功させるためには、単純なシステム導入を目的とするのではなく、現場が喜ぶ運用を固め、運用に合わせたシステム・データ構築が重要だ。現場が動くのは、自身の営業生成器を挙げるため。そのためには確度の高い情報(企業属性情報)が必要だ。安全安心な取引環境を構築し、営業の工数をムダにしないことが大切である。
■課題解決講演(3)
診断なくば治療なし!
商談の可視化によるセールスイネーブルメントへの挑戦

amptalk株式会社
VP of Sales
石橋 潤一氏
経費系SaasのデファクトスタンダードであるConcur Japanにおいて、営業部長としてエンタープライズ企業の開拓、利用拡大を推進し、業務プロセス改革の実現に携わる。その後、amptalk(株)に参画、SFA/CRMを使いこなせない日本企業に救いの手を提供すべく日々活動中。
日本の“受注率”を上げるセールスイネーブルメントカンパニーが“Amptalk”。当社のツールはエンタープライズからベンチャーまで数多くの導入実績がある。日本最大のセールスイネーブルメント・コミュニティ“Next Enablers”も運営している。
生成AIは、グローバルで6.1兆~7.9兆ドルの経済インパクトをもたらす。AIは営業領域では顧客データ解析による成約率向上、商談データ解析によるフィードバック率向上、トークスクリプトの最適化、などの効用がある(マッキンゼーの調査より)。生成AIにより大幅なコスト削減だけでなく、売上増加や顧客満足度向上も期待できるのだ。
営業の量と質、両方の視点で変革が求められている。量的には営業リソースの変化(労働人口の減少により規模拡大<生産性向上に、など)、質的には営業スタイル(オンラインと対面のハイブリッド化など)や、顧客の変化(購買の意志決定の複雑化など)がある。
主観に基づく属人化したアナログ的媒体での行動管理、その場限りで再現性がないトレーニング、具体性に欠け学びにつながらない情報共有……従来型の取り組みでは厳しい環境下を生き抜くことは困難だ。
◎Amptalkの基本コンセプト/活用イメージ
Amptalkは、音声認識及び生成AIにより、営業データ蓄積の自動化・精緻化、改善アクションを支援する。経験と勘に頼った営業育成からの脱却を実現する。

amptalk analysisはビデオ会議ツールやIP電話、対面商談などあらゆる手段の営業商談をデータ化し、営業組織における『診断』を支援する。録画・録音データをインプットすると、自動転記・チャット連携の形でアウトプットを行う。
インプットでは、書き起こし・議事録に加え、話者比率や話速、質問回数、トピック(話の内容)分析により会話をデータ化する。架電や商談を自動で書き起こし、生成AIが議事録を作成。SFA/CRMやチャットツールに出力するのである。売れる営業マンと売れない営業マンの違いが明確に分かる。
作成された議事録項目をSFA/CRMの任意の項目に紐付けることで、項目単位での入力と更新ができる。営業担当者の大幅な工数削減につながる。商談分析機能やナレッジ共有機能があり、提案資料だけでは分からない提案・営業の“魂”や経過・前後関係が分かる。
ユースケース(1) トークの分析・改善 話し方や内容を分析することで、具体的なファクト(データ)を基に、「ハイパフォーマーほど営業側が話している時間が短い」「ハイパフォーマーほど『状況整理』に使う時間が長い」といったことが判明する。
ユースケース(2) 提案内容の把握と集計 大規模提案の検知の例では「初回から“全社展開”をイメージした提案ができているか」。クロスセル提案の検知のイメージでは「自部署取り扱いの製品Aだけでなく他製品のクロスセル提案ができているか」といったことが分かる。なお、弁護士ドットコムはハイパフォーマー商談の定量的な可視化と活用に、富士通は会話の形を定着しパフォーマンス向上にAmptalkを寄与させている。
当社はセールスイネーブルメント立ち上げ支援も行っている。導入組織の生産性向上を目指し、工数削減と成果向上の両面で伴走する。営業トレーニング/フィードバック/分析フロー設計の各支援や、講義・ワークショップも行う。
営業ナレッジを現場に浸透させるAIトレーニングツール“amptalk coach”も新開発した。これにより学習⇒記憶⇒練習というAIとのロールプレイングを通じて、生きた営業ナレッジを定着させることができる。そして、商談解析ツールamptalk analysisで実際の商談をデータ化してフィードバックし、適用⇒熟達へと持っていく。Amptalkで学習から熟達まで、一気通貫したトレーニングサイクルが実現する。
■特別講演(2)
AI時代の営業人材育成戦略
~ デジタルとアナログの両利き人材をどう育成するか ~

トライツコンサルティング株式会社
代表取締役
角川 淳氏
京都工芸繊維大学を卒業後、専門商社、コンサルティング会社を経て、2012年トライツコンサルティング(株)を設立。30年以上、B2Bマーケティング&セールス分野のコンサルティングに携わる。それぞれの事業に適合した営業コンセプトの策定から、しくみづくり、必要な組織化やシステム化、次世代リーダーの育成支援などに取り組むことで、事業の継続的な発展を支援する。
営業DX推進、SFA導入、ソリューション営業研修実施、MA導入、ホワイトペーパー提供、セールスイネーブルメント導入、営業改革チーム設置……。営業改革・営業人材育成のためにこうしたことを行う企業は多い。しかし、その成果・結果は実際のところどうか?何のための営業改革なのだろうか?
営業生産性は、とどのつまりアウトプット÷インプット。稼ぎ(分子)を増やして、ムダ(分母)をなくす。以前は売上÷営業担当者数でよかった。しかし、デジタルマーケティングや営業の分業化などにより人的コスト以外が増える傾向にあり、SFAを導入してもアウトプット増とインプット減は確定はしない。
新しい道具を導入し、どの水準までどうやって生産性を高めるかを明確にしてスタートすることが基本だが、あまり考えられていないことが多い。営業生産性を数値化し、継続的に追求しなければならない。
営業がAIをどう活用するか、ということが注目されがち。しかし、実は顧客においてもAI活用が進みその購買活動が変化している。デジタル時代は顧客が情報優位であり、営業は情報で顧客をコントロールできない。顧客は自分で判断して動く。
もっと早く!簡単に!分かりやすく!というハイテク。もっと自社に合った専門的な知見を!気づきを!一緒に考えて!というハイタッチ。この両面から営業活動をデザインし、顧客の購買活動を支援・介助することがデジタル時代の営業には必要だ。顧客中心営業(Customer-Centric Sales)である。顧客の購買プロセスに合わせた、コンサルティング的な関わりが大切になってくる。
また、これからの営業には「顧客育成モデル」も必要。潜在⇒顕在⇒見込み⇒既存という顧客づくりプロセスを、時に“飛び道具=デジタルツール”も使いながら行わなければならない。営業のトップが、継続的安定的に成果(利益)を得られる「顧客育成」に徹底的にこだわり、それを手段でなく目的化することが営業DXを成功させる近道である。
セールスイネーブルメントとは、営業活動を段階・プロセスごとに分解し、それぞれの段階・プロセスで使われるコンテンツやツール/システム、関連する研修などの各種施策を評価・改善して全体の生産性を高めること。営業活動を顧客発掘、商談発掘、商談受注と分解し、例えば顧客発掘であれば、Webサイトのアクセス数でなく、期待する次のアクションにつながったかどうかのコンバージョン率でみるとか、商談発掘は単にチラシを何枚配布したかでなく、チラシなどツールごとの活用状況・効果を数値化して検証しなければならない。
更に施策ごとに評価して終了ではなく、全体の生産性を考えることが必要だ。営業生産性向上に不可欠な考え方は下記スライド参照。「人材育成戦略」もこのロジックの中で考えることが不可欠だ。

◎AI時代にあるべき営業活動とは?
今後、顧客と売り買いを中心とした「取引」はどんどんAIに代替される。そこで営業担当者は課題解決に向けての「取り組み」を働きかけるようにしたい。課題とはありたい姿・ビジョンと現状とのギャップであり、そのギャップを解消することが課題解決だ。
大事なのはありたい姿・ビジョンをどう描くかによって課題が変わるということ。一緒に課題解決に取り組むには、顧客のこちらに対する認識=「この人は単なる営業パーソン」をリセット・再構築する必要がある。そのために「インスパイアプレゼン」を行うのである。
インスパイアプレゼンとは、(1)相手の課題意識への共感⇒(2)問題提起&共感を得る⇒(3)問題に対する自社取り組み姿勢&実績⇒(4)自分の存在価値⇒(5)これからどうしたいか、を簡潔に顧客に伝え、相手の意識を変えること。お手本をアニメーション動画にすれば、それを元に現場でロープレもやりやすくなり、短時間で行動変容がなされるだろう。
そしてそこから勉強会などの興味付け⇒共創型ヒアリング⇒取り組み提案⇒取り組み推進・商談発掘⇒受注⇒課題解決とつなげる。先述したように、顧客からの期待役割を変え新たなビジネスを発掘するためには、いきなり商談を探すのではなく、顧客の課題について一緒に考える「取り組み」が必要なのだ。
取り組み提案の制作にはAIの活用が有効だ。ヒアリング内容に対するAIのアウトプットを解釈し(そのままでなく)顧客視点でまとめて、提案する。このような付加価値の高い営業活動のためにはロジカルに考え、表現できる人材育成が不可欠だ。
進化する「価値共創型営業」のイメージは下記スライド参照。データを蓄積し、継続的に進化させるのである。

いろいろな企業で実践してわかってきたことを、まとめとして。
(1) 顧客の心のドアを開き、本音を引き出したり、潜在化している課題を発掘することは、「手順」をつくり「練習」を重ねれば高確率で成功できるようになる。
(2) 顧客から聞き出した情報をロジカルに整理し、顧客と自社のWin-Winとなるゴールに向け、相手の気持ちを動かす提案内容としてまとめる際に「考える力」「表現する力」の差が出る。
(3) ほとんどの会社では「考える力」「表現する力」を学んだことはなく、我流。
(4) 「考える力」を補うためにAIが活用できるが、あくまでも補助的な役割。
(5) 「考える力」「表現する力」を伸ばすためには、皆で検討する機会を増やす/沢山のお手本を見る/良い「コーチ」をつける。
今までにない「新しいやり方」で顧客の反応が変われば楽しくなる!ポジティブになる!
2025年3月13日(木) 会場対面・オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催
(※講演者様の所属・肩書は講演当時)
source : 文藝春秋 メディア事業局

