偉大な業績を残し、世を去った5名の人生を振り返る追悼コラム
★井上萬二

陶芸家の井上萬二(いのうえまんじ)は、白磁に魅了され、果てしない美への挑戦を続けた。
1995(平成7)年、白磁の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定される。色彩の美しい有田焼のなかにあって、萬二はあくまで白磁に情熱を傾けた。「白磁は色彩がないだけに、形を美しくつくらなければならないんです」。
29(昭和4)年、有田焼で知られる佐賀県有田町に生まれる。父は製陶所の経営者だった。国民学校高等科2年のとき「いずれ徴兵されるのなら士官になりたい」と決心し、海軍飛行予科練習生の試験を受け合格する。44年、15歳で鹿児島海軍航空隊に入隊して、「特攻機を毎日見送りました」。翌年夏、本土決戦に備えて訓練をしていたとき、突如、上官から終戦になったと告げられる。
復員すると父に「柿右衛門窯」に入るようにいわれ、給料なしで修業を始めた。6年ほどしたころ、轆轤(ろくろ)の名人である奥川忠右衛門に出会い、その神業に衝撃を受ける。休日には忠右衛門の自宅に押しかけ、「その技を間近で見て脳裏に刻み込みました」。
58年、29歳のとき県の窯業試験場に就職し、研究と後進の指導に当たった。この間も試作を繰り返し、39歳のとき白磁にコバルトの藍色を流し込んだ「流雲」で日本伝統工芸展への初入選を果たす。
69年には米国のペンシルベニア州立大学から招聘され、英語を学びつつ若者たちに作陶指導を行う。カミカゼだったと挨拶すると歓声があがり、親しくなってからは萬二の英語を直してくれた。以降、二十数回米国で指導した。
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