金森徳次郎 旧民法の犠牲者だった新憲法の取上げ爺さん

金森 久雄 エコノミスト
ニュース 社会 政治 歴史

金森徳次郎(かなもりとくじろう)(1886―1959)は名古屋生まれ。大蔵省から法制局に移り、岡田内閣法制局長官。右翼勢力による一木喜徳郎枢密院議長追い落とし劇だった天皇機関説事件に巻きこまれ、辞任する。戦後、第一次吉田内閣で新憲法制定を担当する国務大臣となる。貴族院、衆議院双方での質疑にはほとんど一人で応じ、答弁に立った回数は千数百回に及んだ。大臣辞任後、国会図書館初代館長。金森久雄(ひさお)氏は長男。経済企画庁出身のエコノミスト。日本経済研究センター会長。

 昭和21(1946)年3月、貴族院議員に勅任された父は、5月に成立した第一次吉田茂内閣の国務相に就任し、新憲法の制定に係わっています。

 口語体で書かれた新憲法の草案は、4月半ばに公表されました。その草案に世間は戸惑いました。象徴天皇と国民主権という言葉が書かれていたからです。世情は天皇主権の国体護持の考えが強かったですからね。

 6月に召集された第90回帝国議会は“憲法議会”と呼ばれ、憲法草案にある第一条の象徴天皇と第九条の戦争放棄の2点が論議の的となりました。

 その議会で、父は象徴天皇について「天皇は国民のあこがれ」と答弁しています。象徴という言葉を「あこがれ」といい換えた父には感服します。それまで、日本の法律に象徴という用語はありませんでした。

金森徳次郎 ©文藝春秋

 父の考えは、もともと「日本の主権は国民にあった」「天皇は国民のあこがれの中心にあった」とし、たとえ“あこがれ憲法”だとしても国体は少しも変わらない、というものです。そうした考えに至る父の思考過程に触れたことがあります。

 確か、新憲法の草案が公表された頃のことです。その頃、我が家は自給のために小金井でサツマイモを栽培していました。

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source : 文藝春秋 1989年9月号

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