プロが指摘する日本の脆弱性
イスラエルで長く諜報活動に関わり、とりわけ世界最強とされるモサドで「サイフルエンス」(敵対的情報作戦)に従事してきたプロの書籍です。訳者の奥山真司氏がインタビューしてまとめられました。
イスラエルでは18歳になると徴兵制で軍隊に勤務します。ヨナト氏の経歴を見ると、軍の情報士官として心理戦や経済戦などで戦術開発に関わり、いったん軍を退役し、民間企業を立ち上げますが、次はモサドに勤務。イスラエルの軍事組織が柔軟であることがわかります。
イスラエルは敵意を持った国々に囲まれています。ヨナト氏は、そうした国を対象にした秘密工作に従事している過程で、「敵」の諜報機関に身元がばれてしまう経験をしています。「敵」とはどこか。本人は明かしていませんが、状況から見てイランではないかと私は見ています。ただし、2010年にハマスの司令官がドバイの五つ星ホテルでモサドによって暗殺される事件が起きた際、多数のモサドの要員の顔写真がドバイ当局によって公開されたことがあるため、その事件と関係していたのかもしれないと憶測してしまいます。
それはともかく、ヨナト氏が従事したサイフルエンスは攻撃的なものでしたが、2011年に再び退役すると、今度は防御側に回り、民間企業や各国政府のコンサルタントにSNSなどによる攻撃から自らをどう守るかというアドバイスをしています。日本政府にも各種のアドバイスをしているようです。

その彼から見ると、日本はサイフルエンスの攻撃に対して極めて脆弱であると指摘します。たとえば東京電力福島第一原子力発電所の事故後に発生した大量の汚染水から放射性物質を除去し、除去しきれないトリチウムだけを残した処理水を海に放出していますが、これを中国は厳しく非難。韓国でも非難する勢力が存在します。しかし、非難する中国も韓国も、実は原子力発電所から大量のトリチウムを海に流しているのです。日本はもっと積極的に中国や韓国に反論すべきだという提案は、まさにその通りでしょう。
SNSによる世論工作は世界各国で行われていますが、ヨナト氏の会社は、今回の参議院選挙前、X上で参政党を宣伝する大量の投稿を分析したところ、拡散したアカウントは、人間ではなく投稿を拡散する自動プログラム「ボット」である可能性が高いと突き止めました。ボットを使って拡散すると、それがSNSのアルゴリズムによってトレンドとなり、興味がなかった人にも情報が届くようになったというのです。
今後の国政選挙で、他国によるSNS上での攻撃に無自覚なまま日本の世論が大きく動いてしまったら……。これこそ「認知戦」だというのです。私たちは、認知戦にさらされているという認知が必要なのです。
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