過度な「商品化」と「能力主義」が不平等を生みだす
『ハーバード白熱教室』で有名になったアメリカの哲学者マイケル・サンデルと、『21世紀の資本』がベストセラーになったフランスの経済学者トマ・ピケティの対談となれば、これは読みたいですね。2024年5月にパリ経済学校で行われた対談を編集したものです。

原題は『平等 それは何を意味し、何が問題なのか』です。これが本書の内容を示しています。
対談は、まず哲学者のサンデルが「思考実験」として不平等解決策の仮説を問いかけます。これにピケティが過去の歴史から、その解を見つけ出すという形で対談が進みます。
対談で特徴的なのは、サンデルが不平等を大きな問題だと考える一方で、ピケティは不平等が昔に比べればはるかに改善されていると楽観的なことです。2人の姿勢の違いが興味深い点です。
ただ、いずれにしても不平等は厳然と存在しています。その大きな要因は、かつて社会の平等化を支えていた累進課税を弱めてしまったことです。また過度な商品化に由来するというのです。つまり何でも商品化し、価格に(報酬に)置き換えてしまうという新自由主義の進行が、不平等を促進させたと指摘します。
たとえばアメリカの保健医療にかかる費用はアメリカのGDPの18%にも達していますが、それだけ費用をかけても、アメリカの保健医療の成果はヨーロッパに比べて惨憺たるありさまです。それを改善するには「脱商品化」が必要だという点で2人の意見は一致します。公共の復権が求められるのです。
サンデルは「能力主義」の弊害を強調します。これは著書『実力も運のうち』でも指摘していることですが、「やればできる」という言葉は努力しても報われない人たちにとっては、屈辱以外の何物でもありません。「大学に行って頑張って勉強すれば成功する」という民主党に代表される言動が、「見下された」と感じる人たちの怒りを買い、これらの人たちがトランプを大統領に押し上げたと見ているのです。
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source : 文藝春秋 2025年3月号