小林武彦「なぜヒトだけが幸せになれないのか」

池上 彰 ジャーナリスト
エンタメ サイエンス 読書

人間は「死からの距離」を見失った動物である

 挑発的な書名です。幸せな人だっているだろうに……と反発してしまう人もいるかもしれませんが、これは「幸せに生きる」ためにはどうしたらいいかを考える書なのです。

 著者は過去に『生物はなぜ死ぬのか』『なぜヒトだけが老いるのか』を出版し、これがシリーズ3作目。

 これまでの著作では、生物が死ぬことの意味や老いることの必然性について語り、「そうか我々も老いて死んでいくことが必然なのだな」と納得してしまいます。著者は、それを知るだけで「少しだけ気が楽になります」というのですが。

 私たちが生きているのは、生きるためのモチベーション(動機)があるからです。それは、幸せになりたいという魔法の言葉でした。

 著者は幸せについて、生物学的な価値観から次のように定義します。

「幸せ」=「死からの距離が保てている状態」

 この定義に当てはめて現状を考えると、ヒトの幸せの妨げになっている原因の一つは、私たちの細胞一つ一つに存在する「遺伝子」にあったというのです。

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source : 文藝春秋 2025年7月号

genre : エンタメ サイエンス 読書