「恐怖マンガの天才」にとっての「母」という謎
昨年10月に88歳で亡くなった楳図かずおの自伝である。読売新聞文化部記者による聞き書きで、生い立ちや漫画家としての歩みが率直な言葉で語られる。最後の取材は胃がんによる死の1か月前だったという。
楳図が登場するまで「怪奇マンガ」はあっても「恐怖マンガ」はなかった。楳図は、前者は〈現象とか見た目を指す〉もので後者は〈内面からわき出る心理的なもの〉だと語る。「恐怖」を前面に打ち出したのは、貸本マンガを描いていた時代、家に来た子供が怖いシーンばかり繰り返し読むことに気づいたからだった。
恐怖マンガの出世作となったのは、「口が耳までさける時」で、養女に行った先の母親が、子供を食べるへび女だったというストーリーだ。へび女のシリーズは少女たちを魅了し、初期を代表する作品群となる。

幼少期を過ごした奈良県の曽爾村には「お亀池のへび女」という伝説があり、父から繰り返しその話を聞いたという。だがへび女のイメージの原型となったのは母だった。
楳図の両親は再婚同士で、腹違いの姉がいた。彼女から見れば、楳図の母は継母である。自分の描くへび女に「母のニセモノ」という設定が多いのは、その影響があるという。
両親とも山深い村の出身だったが、父が土地の伝説を「むかしむかし……」と語ったのに対し、母は、ついこの間あったこととして話した。ウワバミ(大へび)に出会ったら頭ではなく尻尾をちょん切る、後ろからオオカミがついてきたら絶対に転んではいけない――幼い楳図にそんなアドバイスをした。
そんな母の存在は楳図にとってひとつの謎だった。91歳まで生きた母の最期の言葉は「いいこと、ひとつもなかった」だったという。また本書では、元小学校教師の父の死が自殺だったことも明かされている。楳図自身は生涯独身だった。
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