サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します。
今回の数字:人間に必要な睡眠時間=7
現代人――中でも漫画家など締切に追われる職業は、どうしても睡眠が不足しがちだ。しかし先年亡くなった水木しげるは、どんなに忙しくとも必ず1日10時間は眠っていたという。氏がこのことを手塚治虫と石ノ森章太郎に話したところ、そりゃ羨ましい、自分たちは2日も3日も徹夜だ、とバカにしたように返されたそうだ。だが結果として、手塚・石ノ森はいずれも60歳で早逝し、水木は93歳の天寿を全うした。「忙しくてろくに寝ていない」と、なぜか自慢げに言う人は多いが、睡眠時間と共に実は自分の寿命をも削っていることを胸に刻むべきだろう。
しかし、動物が睡眠を必要とするのは実に不思議なことだ。活動可能な時間は大いに減るし、寝込みを敵に襲われるリスクも大きい。にもかかわらず、眠らない動物は進化の歴史を勝ち抜けなかった。イルカなどには脳が半分ずつ交互に眠るものがいるし、空を飛びながら眠る渡り鳥さえも存在する。
こうまでして睡眠が必要な理由は、いろいろいわれている。もちろん脳の休息時間でもあるし、起きている間に得た情報を整理し、脳内に定着させてゆく時間でもある。動物が生き抜くためには、こうした作用が不可欠なのだ。
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source : 文藝春秋 2020年1月号