いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。
22年2月24日、ロシアがウクライナに地上からの大規模軍事侵攻を開始する数時間前、米国ViaSat社の通信衛星システムに対して、何者かが大規模なサイバー攻撃を仕掛けた。これにより、主にウクライナやその他の欧州地域にて、同衛星を利用していた数千のユーザーが一時的に通信を利用できなくなった。
米国政府は後にこれをロシアによるサイバー攻撃と公式に断定。このことからも、ロシア政府の狙いは、ウクライナ軍に提供されていた宇宙からの通信能力を妨害することにあったと考えられる。そもそも、開戦前から多くの商用衛星画像がロシアの地上軍の動向を明らかにしていたし、開戦後にウクライナ軍はSpaceX社の提供するスターリンク衛星を利用することで通信能力を確保するなど、ロシア・ウクライナ戦争においては、宇宙空間の利用が地上の戦いの趨勢に大きな影響を与えてきた。
もっとも、これはウクライナ戦争での特殊な事情ではなく、各国の軍事活動に宇宙システムが組み込まれるにつれて、地上での紛争と宇宙空間の利用はもはや切り離せない。たとえば、米国は18年の「国家防衛戦略」で、宇宙空間を「戦闘領域」と位置づけるとともに、翌年には米宇宙軍を創設している。

宇宙の安全保障利用をめぐる政策転換
一方で、これまで日本の宇宙開発は、科学研究などの民生宇宙開発に偏重した歴史を辿ってきた。1969年の国会決議により、日本の宇宙開発および利用は「平和の目的に限る」とされ、防衛当局による宇宙システムの開発や運用が厳しく制限されてきた。その結果、実用的なロケットや人工衛星の開発は、宇宙開発事業団(NASDA)が、宇宙科学の研究は宇宙科学研究所(ISAS)が中心であった。03年には両者ほかの統合組織として宇宙航空研究開発機構(JAXA)が発足したが、JAXAも軍事宇宙活動には関与しない方針であった。
しかし、冷戦後の安全保障環境の変化などを受けて08年に宇宙基本法が成立。防衛省・自衛隊による宇宙システムの開発および運用が法的に解禁されるとともに、12年にはJAXA法が改正されて防衛分野に協力が可能となった。さらに、18年の「防衛計画の大綱」では、「宇宙・サイバー・電磁波」の3つの領域における能力獲得と、それを「陸・海・空」といった伝統的な領域における防衛力と統合することが掲げられた。この方針によって、防衛省は宇宙システムの開発および利用を本格化させ、20年には宇宙領域専門部隊としての「宇宙作戦隊」を発足させている。
さらに22年末には、「国家安全保障戦略」において、宇宙作戦能力の強化の方向性を改めて確認。23年には、宇宙安全保障分野の課題と政策を具体化する「宇宙安全保障構想」が決定されている。
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