日本にも認知戦時代が到来した

人間の脳が戦場に

奥山 真司 地政学・戦略学者

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いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。

 ソーシャルメディア(SNS)などを通じて行われる「認知戦(Cognitive Warfare)」が、日本でも2025年の参議院選挙期間中、ロシアによる選挙介入疑惑が報じられ、注目され始めた。認知戦とは、心理戦や情報戦を超え、人間の知覚・判断・意思決定そのものを戦場とみなし介入する行為を指す。単なる宣伝や情報操作ではなく、個人や集団の認知プロセスに影響を与え、敵対勢力の行動や社会全体の意思決定を望ましい方向に誘導・分断することを狙うため、「人間の脳を戦場とする戦争」と形容される。

 認知戦は正面衝突を避けつつ相手社会の意思を変える低コストの抑止・強要手段として重視される。民主主義国家では世論が政策決定を左右するため、その効果は特に大きい。現在、多くの国や主体が認知戦を実施しているが、その影響や防御策は未解明な部分があり、対処は模索段階にある。

 認知戦の歴史は古い。その歴史は古代にまで遡ることができ、アレキサンダー大王におけるペルシャ遠征や「三国志」などで展開される欺瞞工作、そして近代では両大戦や冷戦で行われた宣伝戦などにその要素を見ることができる。

奥山真司氏 ©文藝春秋

 そして近年になり、SNSやスマートフォン、AI、大規模データ解析の普及によって個人レベルにまで浸透し、拡散速度と影響範囲が飛躍的に拡大した。「認知戦」としてその特徴が際立って論じられるようになってきたのは、SNSが活用された2014年クリミアへのロシアの軍事侵攻、そして2016年トランプ大統領の選挙戦やイギリスの「ブレグジット」といわれるEUからの離脱を決める国民投票だ。この当時のロシアの工作機関やそれに影響を受けたプレイヤーたちは、SNS上で偽アカウントを多数運用し、分断的な議論を拡散し、英米社会の対立を深めることを狙ったことで話題になった。

 最も積極的なのはロシアだ。ソ連時代から情報戦に長け、コミンテルンを通じて世界各地で革命支援や分断工作を行った実績を持つ。現在もサイバー攻撃やディープフェイクを駆使し、米大統領選やウクライナ戦争で影響力工作を展開中だ。日本にも北方領土や沖縄に関して工作を仕掛け、軍事強化を危険視する印象を広めている。アフリカでは政権転覆工作を行い、高い成功率を誇っている。

 中国は建国当初からソ連に学ぶ形で影響力工作を展開し、習近平体制下で「三戦(世論戦・心理戦・法律戦)」を中核能力として重視し、企業やSNSを動員してグローバルな工作を行っている。コロナ禍以降、中国は防御的宣伝から攻撃的情報戦に転換し、フェイクユーザーや偽サイトを駆使して他国批判や分断を煽るようになった。日本は台湾統一の際の障害として最大の標的とされ、歴史問題を利用した反日キャンペーンや同盟阻止のための偽情報がSNSで拡散されている。

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source : ノンフィクション出版 2026年の論点

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