いわゆるサイバー攻撃のニュースは毎日のように流れている。最近では病院がターゲットになり、システムが暗号化され、身代金を求められたり、政府に近い仕事をしている学者の電子メールが狙われたりしている。しかし、こうした行為は、国際法的には「攻撃」ではなく、サイバー犯罪の範疇に入る。
ウクライナでは政府や軍の情報技術(IT)システムのみならず、民間の重要インフラも狙われており、こちらは戦争の一環として物理的な破壊や時に人命の損失につながるかもしれない行為であり、サイバー攻撃といえるだろう。
物理的にロシアがウクライナに侵攻する1カ月ほど前からロシア側によるサイバー攻撃が行われ、ウクライナ政府にワイパーと呼ばれるデータ破壊を狙ったプログラムが送りつけられたり、米国の人工衛星の通信が妨害されたりした。
平時に行われれば、そうしたサイバー攻撃は大きなニュースとして扱われただろう。しかし、ミサイルや戦車による侵攻の陰で大きく取り扱われることは少ない。いわゆるハイブリッド戦においてはサイバー攻撃や電子戦は大きな役割を果たすと想定されていたが、ロシアのそうした攻撃は戦略的な目標の達成には至っていない。
ロシアのサイバー攻撃が思ったほどの成果をあげていない理由はいくつかある。第一には、ロシアのサイバー攻撃が2014年のクリミア侵攻の時からそれほど進歩していないことだ。理由は不明だが、同じ手が通用するほど甘くはない。
第二に、ウクライナ側の周到な準備がある。クリミア侵攻以後、同じことが繰り返される可能性があるとして、19年にゼレンスキー大統領が就任すると、ITに強いフョードロフ副首相兼デジタル化担当大臣を任命し、ウクライナのIT業界や重要インフラ事業者との対話や研修を重ね、次の攻撃に備えてきた。
第三に、いわゆる戦略的コミュニケーションを駆使し、ゼレンスキー大統領以下、官民の人々が、ロシア包囲網を形成し、ウクライナの味方になるよう促した。ウクライナIT軍と呼ばれる非公式なオンライングループも形成され、四六時中、ロシア軍、政府、民間企業に対する妨害的サイバー攻撃を行っている。
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source : 文藝春秋 2023年2月号