いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。
軍拡を続ける中国・習近平政権にどう向き合い、「万が一」に備えるか。これは東アジアの国々にとっての共通課題である。そして、その課題が最も先鋭的に突きつけられている場所は、中国が統一を誓っている台湾に他ならない。
台湾と中国の距離は最も近い場所で120キロ。中心都市の台北とも140キロ程度しか離れていない。対岸の福建省のミサイル基地から放たれたミサイルが着弾するまで一分強しかない。避難は事実上困難である。日本で騒がれている「台湾有事」は、他人の庭で起きた火事が自らの庭や家に飛び火するかどうかを論じるものだが、台湾社会にとっての台湾有事は自らの生命・財産の危機に一瞬で直結する事態を意味している。
そんな危機感を体現したのが台湾で年に一度行われる対中戦闘模擬演習「漢光」である。過去40回も実施された演習だが、2025年の様子は違った。日数は従来の5日間から10日間に延長。中国軍が台湾に侵入し、「都市防衛」と「市民戦」を想定した内容が加えられた。
従来の「漢光」は、基本的に上陸を阻止する水際防衛が主軸だった。陸海空で中国の作戦を食い止め、台湾を守る想定である。今回はその防衛線が突破され、台北に陸路や河川を通じて接近する中国軍との戦闘になる想定になった。よりリアリティを高めたのである。さらに今年は2.2万人の予備役兵も動員した。演習場所は台北など都市部の地下街が使われ、都市戦を想定したものとなった。
台湾がここまで「本気」になったのは、中国の台湾侵攻が「本気」だと気付いたからである。中国の軍備拡張は台湾人もよく知っていたが、それはあくまでも米国や日本などと向き合うための軍事力であり、中国が自国の「領土」とみなし、「同胞」と位置付ける台湾人に向けられるものではないと思っていた。「中国人不打中国人(中国人は中国人を攻撃しない)」という言葉がよく台湾でも語られていた。
ところが2022年のペロシ米下院議長の訪問の際、中国が報復として実施した軍事演習に台湾社会は驚愕した。台湾への軍事侵攻を完全に想定した演習だったからだ。台湾を海と空から包囲して米軍の接近を許さず、電子戦や空挺部隊によって政府・軍・民間の重要拠点を電撃的に掌握しようという動きが見えた。
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