最悪の場合、政府要人が暗殺される危険性すらある
1.日本の新たな安全保障政策
岸田政権は、2022年12月16日、国家安全保障戦略、国家防衛戦略(旧防衛計画の大綱)、防衛力整備計画(旧中期防衛力整備計画)のいわゆる「安保三文書」を改定し、「能動的サイバー防御」を導入する方針を明記した。重大なサイバー攻撃については、「未然に攻撃者のサーバー等への侵入・無害化」を可能とすることも掲げた。
新国家安全保障戦略は、「武力攻撃に至らないものの、国、重要インフラ等に対する安全保障上の懸念を生じさせる重大なサイバー攻撃のおそれがある場合、これを未然に排除し、また、このようなサイバー攻撃が発生した場合の被害の拡大を防止する」と謳う。また、サイバー安全保障分野の政策を一元的に総合調整する新たな組織の設置や法整備の方針も盛り込んだ。
岸田文雄内閣総理大臣は、同日の記者会見で、サイバーなど新領域の対応について、「軍事と非軍事、平時と有事の境目が曖昧になり、ハイブリッド戦が展開され、グレーゾーン事態が恒常的に生起している」と危機感をあらわにした。
三文書の理念は、早速、具体化されようとしている。西村康稔経済産業大臣は、1月6日、ワシントンでマヨルカス米国土安全保障長官と会談し、サイバーセキュリティ分野での連携を強化する覚書を結んだ。政府調達のソフトウェアをめぐり、日米で同水準の安全基準を設けるなどする。サイバー防衛の分野においても今後、日米の連携強化が加速する見通しだ。
2.ウクライナ侵略でのサイバー戦
ロシアによるウクライナ侵略が始まったのは、2022年2月24日のことだ。しかし、実は、その1カ月以上前から「戦争」は始まっていた。1月14日、ウクライナ政府の約70のウェブサイトが一斉攻撃を受けた。2月15日には国防省や銀行などが、DDoS攻撃(分散型サービス妨害攻撃)の被害に遭った。軍事攻撃が始まる直前の2月23日から24日未明にかけては、ウクライナ軍が使用する通信衛星のネットワークが大規模な攻撃にさらされた。侵略後は軍事攻撃とサイバー攻撃を連動させる手法もとられた。
しかしながら、一連のサイバー攻撃は、ロシア側が想定したほどの被害を与えることはできなかった。ウクライナは、ロシアによる2014年のクリミア併合時の経験などから、サイバーセキュリティの強靱化に努めてきたからだ。2016年に初のサイバーセキュリティ戦略を策定、2017年にはサイバーセキュリティ法を制定し、欧米との官民の協力、連携も強化した。
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