本命バンスの窮地 イランという落とし穴

トランプ後継の暗闘

飯塚 真紀子 在米ジャーナリスト

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停戦協議失敗なら「バンスのせい」の責め苦

 世界を混迷の渦に陥れたトランプ米大統領だが、任期は約2年半を残すのみだ。果たして、後継者として米国を率いるのは誰になるのか。目下、最有力とされるJ・D・バンス副大統領について、在米ジャーナリストの飯塚真紀子氏がレポートする。

 今回のイラン攻撃は次期大統領選挙の共和党候補として大本命と見られてきたバンス副大統領(41)の地位を大きく揺るがしている。イランとの停戦協議で米側交渉チームの代表を務めているが、本稿執筆時点で、次の交渉日時さえ決まっておらず、停戦への見通しが全くついていない。

 バンスはトランプ政権の幹部の中で、唯一人、対イラン軍事作戦に否定的な見方をしていた反戦派である。そもそも彼がトランプ陣営入りしたのも、トランプが戦争に否定的な“平和の大統領”を標榜していたことが大きい。

 副大統領候補に指名される1年半前の2023年1月、ウォール・ストリート・ジャーナルに「トランプ氏の最良の外交政策とは? 戦争を始めなかったことだ」と題する記事を寄稿し、「トランプ氏は米国人を海外での戦闘へと送り込むようなことはしないと確信している」と述べている。

 バンスが反戦派であることは、著書『ヒルビリー・エレジー』で言及されているように、生い立ちと関わりがある。鉄鋼業が衰退して荒廃した「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」のオハイオ州で生まれた彼は、幼少期に両親が離婚し、結婚と離婚を繰り返す薬物依存症の母親から虐待も受けた。生活の困窮から、高校卒業後は、海兵隊に入りイラク戦争に従軍。長期化・泥沼化する戦争を目の当たりにしたことで、米国が戦争に関与することを批判し続けることとなる。

トランプ政権で数少ない“反戦派”であるバンス副大統領 ⒸNurPhoto via AFP

 2020年、トランプがイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害を命じた際には警鐘を鳴らし、副大統領候補に指名された2024年の大統領選の際にはこう明言している。

「我々の国益は、何よりもイランとの戦争を回避することにあると強く確信している。戦争は膨大なリソースの浪費となり、国に極めて大きな財政的負担をもたらすことになる」

 今年1月、トランプがイランに対し、反政府デモ参加者の殺害を止めるよう警告した際にも、バンスはトランプに越えてはならない“レッドライン”を守るよう進言している。

“招かれざる客”

 しかし、誰よりも忠誠心を重視するトランプは、バンスの反戦思想を快く思っていなかったふしがある。それを示唆するエピソードを4月7日付けのニューヨーク・タイムズが紹介している。

 さる2月11日、ホワイトハウスのシチュエーション・ルームで、トランプと政権幹部はイスラエルのネタニヤフ首相らと会合を持った。しかし、そこにバンスの姿はなかった。この日、彼はアゼルバイジャンを訪問しており、急遽設定されたこの会合に参加できなかった。

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source : 文藝春秋 2026年6月号

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