わたしたちは何故Twitterをやるのか。140文字という制限ある「ことば」に、何を乗せて、誰に届けたいのか。この連載では、日々“140文字の言霊”と向き合う人びとが「自分にとってTwitterとは何か?」というテーマで文章を綴ります。第1回の筆者は「シャープさん」こと山本隆博氏です。
勤める会社のツイッターを担当して9年ほどになる。いわゆる企業公式アカウントというやつだ。9年が長いのか短いのか、私にはいまいち判断がつかない。なにしろ日夜ワンオペですべてのツイートを書き、リプライに返事し、送信ボタンを手動で押してきたので、仕事というより生活という感覚がしっくりくるのだ。
同じ会社で同じ仕事を9年続けていると言うと、むしろ珍しがられるような流動性の高い社会だけど、同じ場所で同じ暮らしを9年続けていると言えば、はあそうですかとだれだって返すだろう。私の9年には、長いも短いもない。あるのは労働と生活の営みだけ。それはすなわち、ただの日常だ。
とはいえただの日常もミクロに見れば、個別に特殊な事情がある。たとえば私にとってその9年は、文字どおり絶え間なく言葉を紡いだ時間だった。紡ぎ呟く毎日。それはイコール、自分の言葉が、企業と個人に引き裂かれた時間でもある。
ツイッターをやれと会社から言われたのは2011年の半ばだったと思う。ちょうど東日本大震災に直面した社会が、情報インフラとしてのツイッターの有用性に気づいたころだ。その風潮に便乗するように、広告とかマーケティング、デジタルといった名のつく業界では、企業がフェイスブックやツイッターで、自社アカウントを開設するのが一種のブームにあった。
おそらくどこかの広告代理店に焚きつけられたのであろう、SNSもスマホも覚束ない当時のボスが、なぜか私に会社のツイッターをやれと言ってきたのだ。思い返せばその指示も「ウチもツイッターなるものをやらねば」と、いささか心もとないものであった。
それまでの私は、テレビコマーシャルや新聞広告を作る仕事に従事していた。世界の亀山モデルなどといえば、かすかに記憶が蘇る人もいるかもしれない。日本を代表する大女優が静かに佇み、とにかく見る人に、製品の上質な印象やあこがれを抱いてもらおうと狙う内容である。当時は広告の成功事例として、業界ではそれなりにちやほやされることもあったし、とかくバカスカお金を使う仕事で、どこか私も上気したところがあったように思う。
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source : 文藝春秋 2020年4月号