シマゲジことNHK元会長の島桂次(しまけいじ)(1927―1996)は平成8(1996)年6月23日、急性呼吸不全により68年の生涯を閉じた。会長時代「新しい公共放送の構築」「親方日の丸体質の一掃」を掲げ、強力なリーダーシップを発揮したが、放送衛星打ち上げをめぐる国会での食言で、会長を辞任。その後、インターネットで情報を発信する「島メディアネットワーク」を設立して鋭いメディア批判を展開したが、夫人との離婚、一人息子の急死など、晩年は寂しいものだった。誠さん(東京国際大学教授)は長兄。※文藝春秋1998年12月号掲載
弟の桂次は、栃木県の山奥で生まれたせいか、小さい頃から海に憧れていました。それで、地元の宇都宮中学から広島県江田島の海軍兵学校に入りました。弟は海軍の軍人になるつもりだったようです。ところが、ちょうど卒業の年に終戦を迎え、軍人になりそこねて郷里へ帰って来ました。
桂次は戦争に敗けたのが悔しくてたまらず、家の廊下を踏みならしたり、部屋の壁を叩いたりしてずいぶんと母を困らせていました。その後、旧制の新潟高校を経て、東北大学を卒業した弟は、たまたま新聞で見つけたNHKの職員募集に応募したんです。いまさら銀行員や役人には向いていない。ひとつ放送記者とやらをやってみようじゃないかという程度の理由だったようです。
駆け出し記者時代に、赴任先の盛岡放送局で酔っ払って同僚のアナウンサーを殴ったことがきっかけで、東京に呼び戻されたのが桂次の政治記者としてのスタートでした。その頃、弟は政治家のところへ取材に行っても若造だからと相手にしてもらえず、「早く年をとって一人前の記事をとりたい」と口癖のように言っていました。弟は、政治家に一人前の記者として認めてもらえないのがよほど悔しかったのでしょう。
頭を下げるのが大の苦手
やがて自民党の「宏池会」担当となり、桂次の子供のような無邪気さを気にいってくれる政治家も出てきた。とくに、池田勇人さんや大平正芳さんからは「島君、島君」と言って好かれていたようです。池田さんは「貧乏人は麦を食え」と発言して大問題になりましたが、こういう歯に衣着せぬ正直な発言のできる政治家を弟は好きだったし、相手も弟の中に同じような純粋さを感じたのではないでしょうか。
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source : 文藝春秋 1998年12月号

