官邸が主導したトップ人事。安倍政権の野望はNHKをどこへ導くのか
国会に参考人招致されている当事者でありながら、さほど緊張感が伝わってこない。NHK新会長の籾井勝人（71）を見ていると、そんな特異なキャラクターを痛感させられる。
「この間、官邸の菅（義偉）官房長官から直接電話がかかって来て、細かい指示を受けてきたみたいです。籾井さんはそれを『また菅さんから電話がかかってきちゃった』と能天気に吹聴してしまう。だから周囲のNHK職員は心配し、『会長、そういうことはお話しにならないほうがいいですよ』と注意する一幕もありました」
そう打ち明けるNHK職員もいる。NHK内部では、新会長を庇いきれないという声まで上がっている。
軽量級と称される籾井新会長は、一月二十五日の就任会見でおこなった自らの従軍慰安婦問題発言などにより、早々に窮地に立たされてしまった。なにしろ国際放送について「政府が右と言っているものを左と言うわけにはいかない」とまで言う。それでいてマスメディアトップの意見ではなく、個人的見解だとの言い逃れが通用するわけもない。予算委員会や総務委員会で追及され、右往左往するあり様がNHKの国会中継で放映されるたび、呆れた視聴者も少なくないだろう。
おまけに問題噴出から間もない二月十二日に開かれたNHK内部の経営委員会の席上では、「発言を取り消しているし、どこが悪いのか」と開き直っていた事実まで判明。国会の集中審議で民主党の大串博志にそこを突っ込まれると、「まだ議事録が公表されていないので、コメントできない」と返答するのが精いっぱいだった。NHK職員（前出）が嘆く。
「国会では、担当の秘書役が後ろに付きっきりで、二人羽織のようにペーパーを差し出しながら『（興奮せず）落ち着いてください』なんてやっている。なんとか新会長を支えていますが、そこに官邸の指示がある。慰安婦や右向け右発言など五項目について、『項目を挙げて取り消しはするな』『とにかく何も答えないこと』と指示された揚げ句、結局すべて取り消さざるを得なくなりました。そこまで官邸に振り回されています」
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source : 文藝春秋 2014年04月号
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