「流通革命」の旗印を掲げ、ダイエーを小売業日本一に成長させた中内㓛(なかうちいさお)(1922―2005)。同社取締役、ローソン社長などを歴任した藤原謙次(ふじわらけんじ)氏が顧みる“人生の師”との日々。
私が「主婦の店ダイエー」に就職したのは昭和44(1969)年のことです。当時はまだ西宮の小さな本社で、そこに大卒の新入社員約100名が集められました。中内さんは自ら我々に「流通革命」の何たるかを熱っぽく叩きこみました。それも商売の実務というより、徹底的に理念を説く。「よい品をどんどん安く」「小売業が価格の決定権を握る」「生産者主権から消費者主権へ」。当時、百貨店以外の小売業は、個人商店の延長くらいにしか思われていなかった時代です。中内さんの語るヴィジョンはまさに革命的でした。
その熱気にすっかり洗脳されて、売り場に立つ。すると、その正しさを日々、実感するのです。毎朝、開店前にお客様が列をなし、オープンと同時に奪い合うようにして買っていく。ダイエーへの期待がひしひしと伝わって来ました。店舗が拡大していくので、若い社員にもどんどん大きな仕事が任される。まさに革命に参加している充実感で溢れていました。
後に中内さんが現場を抜き打ち視察することが評判になりましたが、ナマの現場に全てが現れているという信念からでした。無類のメモ魔で、宴席だろうと何だろうと、気になったことがあるとその場ですぐにメモする。釣り用のチョッキを愛用していましたが、それもメモやペンなどをすぐに取り出せるからです。そうしたメモがそのまま仕事の指示書になり、教育や会議のネタになりました。

また、非常に筆まめで、会った人によく毛筆で手紙を出していました。海外に行くと、社員に宛てて毎日50通は書いていましたが、一人一人内容が違う。もらった社員は感激するより畏(おそ)れ多くて、返事が書けないでいると、中内さんは「返事ひとつ寄こさない」と怒る。つまり、社員教育の一環なのです。
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source : 文藝春秋 2013年1月号

