家電メーカーの技術者を次々採用、コロナ禍でも好調な「ガラガラ店舗」の秘密
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▶︎西松屋チェーンは26期連続の増収がほぼ確定している。人口減と少子化の時代にあって、四半世紀以上、売上高が増えつづけている
▶︎西松屋チェーンの「ガラガラ店舗」こそ、チェーンストア経営のモデルのひとつ
▶︎2004年4月に沖縄県に初出店したことで、全都道府県への出店を果たした。2018年12月には1000店突破を達成している
本当に人びとのためになる店
成人だけの家庭では気にもとめない必需品がある。子育て家庭における紙おむつである。昨春、新型コロナウイルスの感染拡大にともなう緊急事態宣言の発令中、どこのチェーンストアでも品薄になるなか、ベビー・子ども用品専門の西松屋チェーンには、都市部の店舗であっても、愛用する安価で納得のいく品質の紙おむつが豊富に陳列されて安心できたと聞く。本当に人びとのためになる店とはかくあるものなのであろう。
2021年2月期の決算では年商1590億円を見込む。減益となった決算期もあったが、26期連続の増収がほぼ確定している。人口減と少子化の時代にあって、四半世紀以上、売上高が増えつづけている。
この西松屋チェーンを、2000年5月から昨2020年8月まで20年にわたって社長として率いてきたのが現会長の大村禎史である。2月に66歳になっている。
「コロナのワクチンを優先的に打ってもらう年齢になったいうのは、ま、第一線を退いても後ろ指をさされないんじゃないかと思うんですわ」
大村会長
柔らかな関西訛りで笑う顔は血色がいい。語り口は控えめで、良家の出身であると伝わってくる。
2002年にSARS、05年に鳥インフルエンザ、12年にMERSといった感染症拡大の恐怖に世は震撼させられてきた。そのたび、大村は、最新の情報を集めて動向を見極め、客らの安全を第一に対策を講じてきた。鳥インフルエンザ騒動のときには医療用マスクを備え、一部の社員は防護服まで試している。
専務であった1995年には地元で阪神淡路大震災が起き、社長である義父の茂理(もり)佳弘を支えながら、自ら対策本部長となって、従業員の安否確認や救援物資の供給、店舗の営業再開に従業員総出で当たらせた。
「まず水とミルク、紙おむつが必要になります。物資を届けると同時に、なるべく早く店を再開させる。停電していてレジが使えないなら、電卓を叩いてもいいと指示しました」
「鉄屋」から義父の会社に
大村は、「ヒトにも感染する鳥インフルエンザAは『H5N1』と呼ばれましたね――」と、専門家でなければ覚えていないような用語をいまもさらりと口にする理系の知識を豊かに持つインテリである。
「曾祖父や祖父の代をさかのぼれば、火をつけるマッチを、日本国内でも先駆けて生産する工場を明治時代に営んでいたようです」
父の澄夫は、川崎重工業に勤めていたが、のちに独立し、現在の姫路市内で有限会社白浜鋳鉄工業所という小さな工場を始めた。大村家の菩提寺に墓参りに行った折、墓石に「蒲田屋」という屋号が刻まれていた。姫路城の城下町で工場を営み、代々つづく商家であったと長じて知る。
勉強はよくでき、兵庫県で最古の歴史を誇る名門の県立姫路西高校に入学する。「いずれ家を継いでもいい」と考え、現役で京都大学工学部に合格し、大学院に進んで金属工学を修めた。1979年、24歳で姫路を本拠とする山陽特殊製鋼に入社する。「鉄は国家なり」という気風と矜持を色濃く残す業界で、エリートエンジニアとして、トヨタ自動車などの日本を代表するメーカーを取引先に、ステンレス鋼の商品開発、問題発生時の原因調査や対策立案に携わった。
西松屋チェーンの本家の前身は、姫路の城下町に呉服店「松屋」として1879(明治12)年に創業された。現在も、JR姫路駅前のロータリーから姫路城へと真っすぐ伸びる大手前通り沿いに「西松屋」として本店を構え、支店も営んでいる。
この西松屋から分家し、1956年、創業家の娘である茂理満(みつ)とその次男・佳弘が赤ん坊の宮参り衣装、出産準備品を扱う「赤ちゃんの西松屋」を本家の隣りに開いた。やがて現在の西松屋チェーンとなる。
茂理佳弘・敬子夫妻には男児がなく、娘だけが3人いた。地元の有力者が仲人となって、その長女と大村は見合いをし、27歳のとき、結婚する。同じ中学、高校の出身で、弟と同学年でもあったことから、紹介されたときより親近感があった。姫路で子ども服の西松屋といえば有名であり、大村も知っていた。山陽特殊製鋼での仕事は充実しており、妻の家業とはかかわらず、エンジニアとして生きていくつもりでいた。
「昔はコンビニエンスストアもなかったし、だいいち、私は服の一つも自分で買ったことがろくになくて、全部、母親や妻に任せきりでした」
脳天を撃ち抜かれた本
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