イギリス王室のヘンリー王子とメーガン妃が発表した「王室離脱」は世界中の人々を仰天させた。実はこの騒動の背景には、エリザベス女王とのメーガン妃の対立があった。ハリー王子も止められない奔放プリンセスの正体とは?
女王のすばやい対応
「私たちは王室の主要メンバーの地位から退きます」
1月8日、英王室のヘンリー王子とメーガン妃が突然、インスタグラムで「王室離脱」を発表し、世界に衝撃が走った。
2人は、「王室の中で、新しく革新的な王族のあり方を樹立する」と宣言。「経済的に自立する」、「今後は英国と北米を行き来しながら生活する」、そして「今後も引き続きエリザベス女王を支えていく」と自分たちの希望を訴えた。
この発表については、エリザベス女王も知らされていなかったという。昨年来、2人から内々に希望を聞き、話し合いに応じる意向を示していたにも関わらず、である。
この電撃的な「王室離脱」をメディアは大々的に報じた。
「過去30年で英国王室最大のニュース」(デイリー・テレグラフ紙)
「ダイアナ妃の死後、王室最大の危機」(NYタイムズ紙)
挙式からまだ2年もたっていないカップルの一方的な「王室離脱」宣言に対する、英国民の視線は冷ややかだった。メーガン妃が王室に入り、離脱を発表するまでの公務実績はわずか72日間にすぎず(ヘンリー王子は同じ期間に153日)、王族としての特権は維持しながら、公務などの責任を果たさない「半公半民」の立場は、極めて都合のいい考えだと受け止められ、国内での2人の好感度は急降下した。ヘンリー王子は71%から55%、メーガン妃は55%から38%と、いずれも大幅に下落し、今回の騒動を主導したとみられるメーガン妃を「嫌い」と答えた人は、35%から49%に急増した(世論調査YouGov調べ)。
こうした世論を受け、エリザベス女王の対応はすばやかった。
発表からほどなく、2人の決断を「初期の段階」とし「検討に時間を要する複雑な問題」と短文の声明を発表。さらに「数日以内に事態を収拾する」との意向を示し、1月13日には女王の私邸サンドリンガム・ハウスで緊急家族会議(「ロイヤル・サミット」)が開かれ、チャールズ皇太子とウィリアム王子、ヘンリー王子が集った。
しかし、そこにはマスコミの目から逃れるようにカナダに渡ったメーガン妃の姿はなかった。当初はテレビ電話で参加するとみられたが、盗聴などの恐れもあるため不参加となったという。
2時間に及ぶ話し合いの中で、ヘンリー王子夫妻が歳費を返上することが決まった。ただし、夫妻の収入のうち返上する歳費は5%(約1500万円)に過ぎず、残り95%(約2億8000万円)は、チャールズ皇太子が所有するコーンウォール公領の収入からの充当金で、当面の間維持される。
「私と家族は、ハリー(ヘンリーの愛称)とメーガンの若い家族として新しい人生を築きたいという願いを全面的に支持します」
ロイヤル・サミット後に女王が出した声明には、これまで女王が声明で使っていた「サセックス公爵夫妻」の文字はなく「ハリー」と「メーガン」という呼び方に変わっていた。
メーガン流を貫いた
妻を擁護したヘンリー王子
「2020年春以降、ハリー王子とメーガン妃は公務から引退し、王室の称号(殿下・妃殿下)も使わない」
サミットから5日後、エリザベス女王が下した結論は事前の予測を上回る厳しいものだった。
「王冠をかけた恋」で知られ、離婚歴のあるアメリカ人女性シンプソン夫人と結婚して退位したエドワード8世も王室の称号(殿下)は認められていた。“称号剥奪”は、チャールズ皇太子と離婚したダイアナ妃などの例に続くものだ。
ダイアナ妃
ダイアナ妃の悲劇により激しい非難にさらされた英王室が、ヘンリー王子夫妻の称号を“奪う”ことはないとみられていた。しかし、エリザベス女王は、「(本人たちの了承のもと)称号を使わない」という形で「剥奪」に次ぐ判断を下したのだ。
さらに、2人が公費で約3億5500万円かけて改修した住居、フロッグモアコテージの改修費は返還させることにした。「王室離脱」後は、その家賃も支払うことになるとも発表された。
また、10年間、軍務に従事し陸軍大尉に昇進していたヘンリー王子は、軍人としての公務、称号もなくなることになった。2度のアフガニスタン派遣を経験、軍への思い入れの深いヘンリー王子にとってこの決定も厳しいものだったろう。
極めて異例の決定が下された翌19日、公の場に登場したヘンリー王子は沈痛な面持ちで「他に選択肢がなかった」と心境を吐露した。
「私を長年よく知る皆さんは信じてくださるはずです。私が妻として選んだ女性が同じ価値観を共有していると。(中略)こうなってしまったのはとても悲しいです。妻と自分が公務から退くという決断は、軽いものではありませんでした」
ヘンリー王子は、なぜ妻を擁護し「同じ価値観を共有している」と強調しなければならなかったのだろうか。
女王の愛犬が懐いた
メーガン妃は、1981年8月4日、米国ロサンゼルスに生まれた。アフリカ系アメリカ人の母をもち、両親はメーガンが6歳の時に離婚。『ジャックと豆の木』が大好きな向上心の強い女の子だったという。
裕福とは言えない労働者階級に育ったが、幼稚園からずっと私立に通い、マークル家で初めて大学へ進学。全米大学ランキングで9位の名門イリノイ州ノースウェスタン大学で、演劇と国際関係学を専攻した。私生活では30歳で映画プロデューサーと結婚し2年後に離婚。突然、夫に婚約指輪と結婚指輪を書留で送り付け、離婚を切り出したという。
女優としては、米人気ドラマ「スーツ」のレイチェル・ゼイン役(法律事務所のパラリーガル役)でブレイクを果たし、セミヌードを披露したこともある。ちなみに、役名のレイチェルはメーガン妃の本名だ。
英国王室のコメンテーター、ケイティ・ニコール氏によれば、ヘンリー王子はメーガン妃と出会う前から「スーツ」のファンで、周囲に「理想の女性はメーガン・マークル」と語り、2016年、共通の友人を介して紹介してもらった。意気投合した2人は、2度会ってすぐアフリカ旅行をする関係になっている。
結婚前のメーガン妃とエリザベス女王との関係は極めて良好だった。女王の愛犬のコーギーがメーガンにすぐ懐いたことが、女王が心を許した1つのきっかけだったと言われている。ヘンリー王子は婚約発表後、BBCのインタビューで嬉しそうにこう語った。
「(女王の愛犬の)コーギーたちはすぐに君(メーガン)が気に入ってね。僕はこれまで33年間ひたすら吠えられてきたのに(笑)」
彼女が言うことは絶対
メーガン妃が結婚前にイギリス国教会の洗礼を受けたことも女王からの信頼を得た理由の1つだ。女王の「寵愛」はウィリアム王子の妻、キャサリン妃をしのぐと言われ、メーガン妃は結婚前から、キャサリン妃が結婚前には招かれなかったエリザベス女王のクリスマス・パーティーに参加した。
エリザベス女王とメーガン妃が初めてぶつかったのは、結婚準備の頃だ。王室ジャーナリストのロバート・ジョブソン氏は著作の中でメーガン妃が、「女王が選んだティアラではなく、エメラルドのティアラを身に着けたい」と言い張ったというエピソードを紹介している。
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source : 文藝春秋 2020年3月号