韓国の卑劣な「東京五輪放射能キャンペーン」

韓国選手団は選手村で食事しない?

李 相哲 龍谷大学教授
ニュース 韓国・北朝鮮
たとえ韓国選手団が選手村の食事をボイコットしたとしても、日本は「韓国の政治的なアピールに過ぎない」と認識しよう。東京オリンピック・パラリンピックは本来、日本人と韓国人がともに盛り上がって仲良くなるチャンスだから。
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李相哲氏

東京五輪と放射能汚染を関連付ける動き

 完全防護服に身を包んだランナーが聖火のトーチを持って競技場のトラックを走る姿――そのトーチの炎は、なぜか緑色で不気味です。

 韓国のVANKという団体がつくったポスターを見て驚いた人も多いでしょう。このポスターには、「TOKYO 2020」、「OLYMPIC GAMES」の文字があり、東京大会のエンブレムまで使用されていました。

 あきらかに東京五輪に対するいやがらせで、ソウルの日本大使館建設予定地の壁にまで貼られていました。私はこの1月、ソウルを訪ねた際、このポスターが日本で大騒ぎになっていると話すと、その韓国人は知らなかったようで、「こんなポスター、馬鹿げている」とびっくりしていました。

 VANKは、これまで日本海の呼称問題や慰安婦問題で活動歴のある団体ですが、さすがに国際オリンピック委員会(IOC)も見過ごすことができなかったのでしょう。広報担当理事がVANKに対し、「政治的メッセージのためのオリンピックエンブレムの不正使用を非難し、今後、このような行動を控えるよう求めた」(産経ニュース2月10日)と報じられています。

 しかし東京五輪と放射能汚染を絡めようとする動きはこれだけではありません。日本ではほとんど報じられていませんが、正月早々、大韓体育会(韓国オリンピック委員会)の李起興(イギフン)会長が、韓国の聯合ニュースの新年インタビューで次のように話しました。

「昨年末に東京を訪問し、五輪期間中、わが国の選手団の食事をサポートする支援センターとの契約を終えた」

 李会長のいう「支援センター」とは、東京・晴海の選手村から車で約15分離れた、あるホテルのことです。李会長は、なぜこのホテルと契約したのでしょうか。

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大韓体育会の李会長(写真中央)

「日本産食材は排除する」

 聯合(れんごう)ニュースは、李会長のインタビューを受けて次のように報じています。

〈東京五輪を巡っては、選手村で提供される食事に東京電力福島第一原発事故が起きた福島産の食材が使われるとして、韓国をはじめ各国から安全性を懸念する声が出ている。(略)

 放射能汚染に対する懸念が払拭されていない中、大韓体育会は韓国選手団の食の安全を最優先に考え、韓国選手団のための食堂を用意すると早くから明らかにしており、先ごろ関係機関との契約を終えた。

 忠清北道・鎮川の国家代表選手村から派遣された調理師が韓国から空輸された食材を使って選手団の食事を24時間サポートする。同ホテルには80人が利用できる食堂があり、五輪を観戦する関連団体の関係者もこのホテルを利用する〉(聯合ニュース1月2日付)

 また中央日報は次のように書いています。

〈東京に派遣される韓国調理師は14人で、1日平均200個の弁当を作り、日本産食材は徹底的に排除する方針だと伝えられた。(略)ホテルの台所と食堂をまるごと賃貸するのに約17億ウォン(約1億5700万円)の費用がかかった」(中央日報日本語版1月3日付)。

 つまり韓国選手団は、選手村の食事をボイコットする――あまりに馬鹿げていて、本当だとは信じられないような話です。

 オリンピック選手村とは本来、競技に向けた準備をする場であると同時に、世界各国から集まった選手たちが自由に交流できる場でもあります。その環境をすばらしいものとするため、開催国は、最大限のサービスを用意して選手たちを受け入れます。

 そのなかで食事は最も大切なものです。栄養面を考慮し、アスリートが満足できるよう細心の注意をもって献立が整えられ、それでいて開催国ならではの食文化を楽しんでもらえる工夫が施されます。選手たちにとっては競技だけでなく、ここでの交流も含めて「オリンピック出場」といえる位置づけではないでしょうか。

 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に問い合わせると次のような回答がありました。

「昨年10月の国内オリンピック委員会連合(ANOC)総会においては、IOC担当より、各国・地域の国内オリンピック委員会(NOC)代表に対して、FAO/IAEA合同レポートを引用しつつ『食品の放射能汚染に関する問題のモニターと対応のために日本当局が取っている措置は適切であり、食品の供給体制は関連部局によって効果的にコントロールされている』旨の発言もありました。

 個別のチームへの言及は控えますが、仮に『福島県食材への不安』を理由に選手村外の食事を提供するチームがあるとすれば、我が国に対するいわれのない風評被害を助長しかねない動きであり、『復興五輪』を大会の源流と考えている弊会としては極めて残念です」

 いまのところこの件について韓国選手団やコーチらのコメントは出ていませんが、おそらく韓国の代表選手のほとんどが嫌なはずです。他の国の選手はみな選手村で食事をしているのに、自分たちだけがわざわざクルマに乗って食事に行くなんて誰がしたいでしょうか。

大統領府の意向を汲んで

 ソウルでペン&マイクというYouTubeを使った報道機関からインタビューを受けた際、この話題を出したら、番組司会者は「それをやると韓国のほうが国際社会から変な目で見られるし、孤立するのではないか」と心配していました。

 今回の決定がどのような経緯でなされたのか、韓国メディアはどこも報じていません。しかし実際に韓国の選手たちが選手村で食事をしないとなれば、世界的な反響を呼びかねないことですから、大韓体育会だけで決められることではないのはたしかです。

 大韓体育会は、政府の文化体育観光部傘下の組織です。李会長が大統領府の意向を汲んでいることは間違いありません。彼らの狙いは一体何なのでしょうか。

 ひとつ考えられるのは、やはり昨夏の日本の韓国向け貿易管理の厳格化以来つづく日韓攻防戦の影響です。日本が韓国を貿易管理のホワイト国(優遇措置適用国)から外した後、実は韓国側が日本をホワイト国リストから除外しています。ところが日本には何の影響もありませんでした。日本は韓国製品がなくても痛くもかゆくもないからです。韓国側も日本が困ることは何もないと知っていましたが、他に打つ手がなかったのです。

 そこで文在寅政権は一か八かで打って出ました。それが、「GSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)破棄通告」という奇策でした。しかしアメリカの安全保障の傘の下から出てしまうと困るのは韓国のほうです。そのため破棄直前の11月に撤回に追い込まれてしまいました。

 このGSOMIA破棄通告と同時に、彼らがはじめたのが、日本に対する「放射能汚染」批判でした。

 昨年の夏ごろ、ソウルを訪れた際、ある政府関係者から、相談を受けたことがあります。

「我々は福島の汚染水問題で日本政府に揺さ振りをかけようと思っているのだが、どう思いますか」

 私は「それは禁じ手であり、韓国にとってもいい結果を生むとは思えません」と止めました。

放射能汚染地図のずさんさ

 ところが9月には、韓国与党「共に民主党」の日本経済侵略対策特別委員会が「日本放射能汚染地図」を作成し公開します。そこには福島第一原発を中心に、東北から関東地方まで放射能汚染が同心円状に広がっており、福島県営あづま球場や宮城スタジアムなど5つの競技場が汚染されているとイラスト入りで示されていました。

 しかしこれは全くの事実無根です。福島の原発から漏れた放射性物質がきれいな同心円状に広がるはずがありません。それぞれの競技場の土壌から検出されたとされるセシウム137の値も実際の数値とは桁違いの高いものでした。村井嘉浩宮城県知事は、「科学的根拠に基づかない数字だ」と反論しましたが、あまりのでたらめぶりに、国際世論も反応しませんでした。

 この地図が公表された翌月、今度は韓国の国会が放射能汚染批判に乗り出します。10月、韓国国会文化体育観光委員会の委員長主催で、「反平和・反環境東京オリンピック対応のための討論会」が開かれました。テーマは「東京オリンピックと放射能の危険」。放射能汚染地図を紹介し、その危険性や日本が取っている対策について論じられたようです。

 実は、この討論会には大韓体育会の事務総長が登壇し、「給食支援センターの運営推進計画」が報告されたようです。おそらく、これが「選手村の食事ボイコット」につながっていったのでしょう。

 選手村の食事ボイコットには、もうひとつ別の背景もあります。それは、WTO(世界貿易機関)における韓国の日本に対する勝訴です。福島県はじめ8県の水産物禁輸措置に関して、日本がWTOで提訴し一審は日本が勝ったのですが、2019年4月に韓国の逆転勝訴が確定しました。

 韓国にとってWTOでの勝利は錦の御旗です。WTOが禁輸を認めたのに、どうして日本は反省せずに、選手村のダイニングで被災地の食材を使うのか。韓国としては自分たちが勝訴したことを日本は無視するなということでしょう。

 しかし、現段階で日本産食品に対して「輸入停止を含む規制」をしているのは中国、香港、台湾、韓国、マカオだけで、他の国は輸入規制を一斉に緩和しており、米国やEUは限定規制。タイ、マレーシア、ベトナムなどの東南アジア各国、インド、オーストラリア、カナダなどはすでに規制を撤廃しています。

 ですからWTOの判断も貿易の規制に関しては各国の主権を認める判断をした面もあるのですが、韓国にとっては国際機関での勝利は大きく、その勝利を認めさせたいという思いが強くあるのです。

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source : 文藝春秋 2020年4月号

genre : ニュース 韓国・北朝鮮