北朝鮮の「瀬取り」を監視する海自哨戒機への“敵意”の意味
クルー(乗組員)たちの肉眼に入った眼下の光景は信じられないものだった。だからその言葉が脳裡に浮かんだのも当然だった。
――なぜ軍艦がここに?
その数分前、昨年12月20日午後、海上自衛隊(以下、海自)のP1哨戒機(以下、P1)は、日本海、日本のEEZ(排他的経済水域)内を哨戒(警戒・監視)飛行というルーティンワーク任務についていた。最近の任務はより重要化し、北朝鮮船舶が国連の経済制裁逃れとして、瀬取り(禁止された石油などの海上取引)という違犯行為を繰り返している事実を、P1は哨戒活動で何度も突き止めて撮影し、国連の北朝鮮制裁委員会にその画像を提出。北朝鮮に対する経済制裁継続の重要な根拠となっていた。だからこそ、P1のクルーたちは、その日も緊張を緩めることはなかった。
午後3時頃だった。対水上モードにしたP1の捜索アクティブフェーズドアレイレーダーHPS-106のディスプレイに、複数のブリッド(輝点)、水上目標のシンボルマークが出現した。機長は、直ちに、目視による確認を行う、と告げた。そうしなければ、どのような船舶かを特定する「ID(類別・識別)」にならない。自国のEEZ内を監視する世界各国海軍の哨戒機の当然の任務である。そしてP1がその海域に到着すると、冒頭で書いたように、クルーたちは大きな困惑に襲われたのだった。
防衛省が公開した約13分間の映像(以下、「公開映像」)通り、クルーたちはまず、韓国海洋警察庁警備救難船「サンギョンボ」を目視してすぐに「ID」を行った。同船が、竹島周辺海域を担当する船舶であることは、海自や海上保安庁(以下、海保)でつとに有名であるからだ。同船のすぐ近くに複数の小型船舶も視認したが、それらの船舶よりも、クルーたちが優先的に関心を向けた水上目標があった。同船から離れた水上にいた駆逐艦タイプの軍艦である。
統合幕僚監部関係者によれば、同軍艦が放つ各種レーダーの周波数特性は、P1の「電波探知装置(ESM)HLR-109b」で捕捉され、直ちに内蔵されたカタロギング(各種レーダー特性を収めた)コンピュータで、韓国海軍第1艦隊所属の駆逐艦「クァンゲト・デワン」(以下、「韓国軍艦」)であるとの「ID」を行った。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2019年3月号