鉛筆にはピース

巻頭随筆

藤枝 リュウジ イラストレーター
エンタメ 読書 アート

 1960年代、ぼくは美大を目指す浪人生でした。予備校へ通っていたある日、電車で見つけた中づりポスターに目を奪われました。

 その広告は外国雑誌の一頁のようなあか抜けたもので、中央にはシンボリックなイラストレーション。まるで別世界だと感じました。

 そのポスターこそ、専売公社のタバコ「ピース」の広告でした。広告史に残る作品です。

 こんな仕事がしたい!! 憧れました。思えば、この体験が私をデザインやイラストレーションの道に向かわせたのです。

 このイラストをみたとき、「和田誠さんの作品だな」とすぐにその名が頭に浮かびました。「多摩美(術大学)の三羽ガラス」の一人として注目されていた和田さんは、在学中にデザイナーの登竜門だった日宣美(日本宣伝美術会)の賞も受賞していました。だから7歳下の浪人生も知っていたのです。

 このピースのシリーズ広告は『地にはピース』という表題で本になっていて、和田さんが制作のいきさつを書いています。広告制作会社ライトパブリシティに入社して2年目、「自分の絵を役だてられるといいな」と思っていたころに、ピースの広告をひとコマ漫画で、というプランが決まった。

「漫画家に頼むの?」と社長に聞かれた和田さんは、「僕が描きます」と即答したそうです。ぼくが見た広告ポスターは和田さんが一線に飛びだすきっかけだったんですね。

 その後、ぼくは芸大を卒業して、トリスウイスキーのテレビCMなどを制作していた広告会社サン・アドに入社しました。でも、あまり広告の仕事が好きになれず、4年ぐらいで辞めて、ファッションデザイナーの稲葉賀恵さんに誘われて、BIGIの仕事をしたりしていました。

 そんなわがままを通しているころも、和田さんの作品に出会うたび、それがひとつの道標になりました。

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source : 文藝春秋 2020年12月号

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