ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、ラリー・フィンク(Laurence D. Fink、ブラックロック会長兼CEO)です。
ラリー・フィンク
「強欲資本主義」の中心で「環境保護」を叫ぶ
「フィンク・レター」なるものをご存知だろうか。運用資産残高約824兆円(2020年9月末時点)、世界最大の資産運用会社ブラックロックの会長兼CEO(最高経営責任者)ラリー・フィンク氏が、毎年、投資先企業のCEOに送っている手紙のことだ。
この中でフィンク氏は、世界経済に対する見通しとブラックロックの運用方針を述べる。これがその年の世界の金融業界の大きな指針になるのだ。とりわけ、今年のフィンク・レターは世界に衝撃を与えた。
タイトルは「金融の根本的な見直し」。「気候変動に関するリスク認識は急速に変化しており、今、金融の仕組みは根本から見直されることを余儀なくされていると思います」と始まり、「今後数年間における最も重要な焦点の一つは、気候変動に対する各国政府の対応の規模と範囲です。これにより、低炭素社会への移行スピードが決まります。気候変動問題を解決するためには、パリ協定で定められた目標に沿った各国政府の国際協調による取り組みが不可欠です」と続けている。
最後の署名を伏せて読めば、まるでEUの政治家か環境保護団体の代表が書いたようだ。「強欲資本主義」の中心地、ウォール街で「気候変動問題を解決するために国際協調せよ」と叫ぶ。それがフィンク氏の凄みである。
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source : 文藝春秋 2020年12月号