ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、オードリー・タン(Audrey Tang、台湾IT担当政務委員)です。
オードリー・タン
「好意」で国家を救うシビックハッカー
アジアを代表するシビックハッカーである。シビックハッカーとは、国家や企業に頼らずプログラミングの技術で社会の問題を解決する市民技術者を指す。
彼女の名前は唐鳳(オードリー・タン)。生まれた時に両親がつけたのは男らしい唐宗漢という名前だったが、2005年に「自らの性認識は体と異なる女性だ」と公表し、唐鳳に改名した。35歳のとき、台湾の蔡英文総統にその手腕を見込まれ、内閣にあたる行政院の政務委員(閣僚)に登用された。部門を超えて行政や政治のデジタル化を主導する役割を期待されてのことだ。
唐の名前が世界に轟いたのは2020年2月。新型コロナウイルスの感染拡大で台湾でもマスク不足が問題となり、日本同様、「購入できないかもしれない」という不安が広がりつつあった。
IT担当政務委員の唐は、保健当局と協力し、薬局のマスク在庫データをほぼリアルタイムで公開するシステムを作り上げた。これは台湾のシビックハッカーたちがそれぞれインターネット上にアップしていた在庫情報を「マスク在庫情報プラットフォーム」というサイトにまとめたもので、政府のデータと組み合わせることで、どの薬局、どのコンビニに行けばマスクが手に入るかをわかりやすく市民に知らせた。
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source : 文藝春秋 2021年1月号