ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、ムケシュ・アンバニ(Mukesh Ambani、リライアンス・インダストリーズ会長)です。
ムケシュ・アンバニ
「21世紀のタージマハル」
インド・ムンバイにあるムケシュ・アンバニの自宅は、訪れた人々からこう呼ばれる。2010年に建てられた高さ174メートル、27階建ての大豪邸で、大西洋にあるとされた伝説の島にちなんで「アンティリア」と名付けられた。建物内には160台分の駐車場とプール、映画館があり、1階には寺院、最上階には図書館まで備えている。
建設には10億ドル(約840億円)が費やされたが、ムケシュにとっては微々たる支出だ。米経済誌フォーブスが発表した世界長者番付2020年版によれば、現在の推定資産は447億ドル(約4兆8000億円)である。世界第17位にランクインし、テンセントの馬化騰、アリババのジャック・マーを抑え、アジア一の大富豪になった。
1957年、インド三大財閥の一つ、リライアンス・インダストリーズの創業者、ディルバイ・アンバニの長男としてイエメンのアデンで生まれた。父のディルバイは16歳でイエメンに渡り、小さなガソリンスタンドの店員として働き始めた。ムケシュが生まれた翌年、インドのムンバイに戻って小さな事務所で貿易会社を設立。香辛料の輸出から繊維に進出し、1977年に株式を上場した。ディルバイは一代でグループ総売上高230億ドル(2兆3700億円)の巨大財閥を築き上げた。
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source : 文藝春秋 2021年2月号