がん患者や家族にとって待ち望まれるのが画期的な「新薬」の開発だ。設楽紘平医師(43)は、その新薬を世に送り出すのに不可欠な臨床試験に取り組んでいる。海外の学会でも活躍する、腫瘍内科医のホープだ。
鳥集氏
海外に先駆ける成果
今年9月、「エンハーツ(一般名・トラスツズマブ デルクステカン)」という薬の、胃がん(がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃癌)への適応拡大が国から承認された。
エンハーツは「抗体薬物複合体(ADC)」という新しいタイプの薬で、これまでは乳がん(化学療法歴のあるHER2陽性の手術不能又は再発乳癌)に対してのみの承認だった。それが日本と韓国での第Ⅱ相試験で、がんが縮小する奏効率、生存期間ともに標準治療を上回る結果が出て、通常は必要とされる第Ⅲ相試験の結果を待たずに承認されたのだ。
製薬企業と共にこの臨床試験を主導したのが、胃がんの薬物療法を専門とする設楽紘平医師。その成果を報告した論文は、医学界でトップジャーナルの一つである「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載された。
「胃がんへのエンハーツは、日本が世界で初めて承認されました。実は医学部生時代、海外で使える抗がん剤が国内で使えない『ドラッグ・ラグ』の問題を取り上げたテレビ番組を見て、がん専門医の道に進もうと決めたんです。エンハーツで海外に先駆ける成果を出せたことは、感慨深いものがあります」
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source : 文藝春秋 2021年1月号