国語辞典編纂者の飯間浩明さんが“日本語のフシギ”を解き明かしていくコラムです。
【ふ】「フェイク」の功労者 トランプさんには感謝
米国のトランプ大統領は、つくづく皮肉な存在だったと思います。「アメリカを再び偉大な国に」を掲げて大統領に就任したのに、再選を賭けた大統領選では敗北の結果を受け入れず、偉大とは正反対の態度を取りました。great(偉大)という単語の価値は、トランプ時代に大幅に下落したんじゃないかな。
皮肉と言えば、都合の悪いニュースをすべて「フェイク」(にせ情報)呼ばわりした彼自身が、「不正選挙の証拠がある」などと、ツイッターで根拠不明の情報を発信しています。ツイッターの運営元がそのつど「この主張には争いがあります」などと注釈をつける始末です。
フェイクでないことを示すには根拠が必要です。「そう言われている」という伝聞だけでは十分でなく、客観的に判断できる証拠資料を示す必要があります。今のところ、トランプ氏はそれをまったく示していないようです。
ところで、「フェイク」が日本語に定着したのはわりあい最近です。私の携わる『三省堂国語辞典』では、2008年の第6版から項目に採用しました。〈にせもの。まがいもの〉の意味で「フェイク食品」の例を入れて説明しました。
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source : 文藝春秋 2021年1月号