米社会の「ファンタジー」

コロナ下で読んだ「わたしのベスト3」

橘 玲 作家
エンタメ 読書

 トランプ時代のアメリカは、「なぜこんなひどいことになったのか」という疑問や不安にこたえようとする野心的な著作を生みだした。

 ネットワーク論の世界的権威クリスタキスは『ブループリント』で、該博な知識を縦横無尽に駆使して「人間の本性」を検証した。その結論は、目の前の暗鬱な出来事にもかかわらず、ヒトの遺伝子には「よき社会をつくる青写真(ブループリント)」が埋め込まれているとのポジティブなメッセージだった。かつて進化生物学や遺伝学は「ナチスの優生学の再来」として忌み嫌われたが、リベラルの理想主義(きれいごと)が次々と破綻するなかで、いまやそれが唯一残された「希望の科学」になったことがわかる。

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source : 文藝春秋 2021年1月号

genre : エンタメ 読書