中国SF恐るべし

コロナ下で読んだ「私のベスト3」

池上 彰 ジャーナリスト
エンタメ 読書

 新たな感染症の拡大を見ると、人間とは失敗を繰り返すものだなと痛感します。そこで手に取ったのがトム・フィリップス著、禰冝田亜希訳の『とてつもない失敗の世界史』です。

 旧ソ連はアラル海に流れ込む川の流れを変えて砂漠で綿花を栽培しようとしました。その時点ではいいアイデアに見えたのですが、川の水が流れ込まなくなったアラル海は、みるみる小さくなり、消滅寸前。新たに塩分濃度の高い砂漠が出現し、砂嵐によって周辺住民の呼吸器を侵すことになりました。

 オーストラリアに植民したイングランドの男が、故郷と同じようにウサギ狩りを楽しもうと、1859年、24羽のウサギを持ち込みました。それが1920年には推定100億羽に増え、大地の草木を食べ尽くす勢いとなってしまいます。国を挙げての駆除作戦に取り組まなければならなくなったのです。

 先を見通すことのできない人類は愚行を繰り返してきたのです。

 デヴィッド・スタックラー&サンジェイ・バス著、橘明美・臼井美子訳の『経済政策で人は死ぬか?』は、緊急事態宣言が出て経済活動が全面的に止まったことをきっかけに手に取りました。

 1929年から始まった世界恐慌は、人々の暮らしに深刻な影響を与えましたが、ニューディール政策によって住環境が改善され、感染症による死者が減ったというのです。景気対策で住環境を改善させることの大切さを教えてくれました。

 出歩けなくなったことで、前から読みたかった劉慈欣著、大森望ほか訳の『三体』シリーズを読むことができました。中国のSFを読むのは初めてでしたが、その奇想天外なこと。雄大なスケールにも驚かされます。話題になっているだけのことはありました。なにより中国でタブーになっている文化大革命の悲惨な描写から始まっていることには驚いたり、感心したり。中国SF恐るべし、です。

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source : 文藝春秋 2021年1月号

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