格差に喘ぐ労働者たち。韓国の現状は日本の近未来だ
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▶︎コロナが長期化する中、ソウル有数の繁華街・明洞が急速に崩壊しつつある
▶︎文在寅政権の「最低賃金引き上げ」が裏目に出てしまい、経済が悪循環に。結果、2019年までの文政権の平均成長率は2.6%と初めて3%を下回った
▶︎韓国の青年層は「公正な社会」を最も重要な価値としている。文在寅政権は雇用創出をしようとするあまり、公正を欠いた歪な社会を作ってしまった
明洞は急速に崩壊しつつある
2020年12月15日午後、年末を迎えたソウル最大の繁華街・明洞(ミョンドン)は、深く沈んでいた。メインストリートは、ほぼ一軒おきに「店舗整理」や「テナント募集中」の張り紙が貼られており、営業中の店も閑古鳥が鳴いている。
閉店した化粧品店
メインストリートで営業中の化粧品店に入ると、店番をしていた青年が、スマートフォンから目を離して筆者を迎えた。青年は店主の息子で、いまは店員を全員解雇し、店主の家族3人が交代で店舗に立っているという。
「1日に訪れる客は10人以下で、実際に化粧品を買っていくのは5人くらい。1日の売り上げは10万ウォン(約1万円)にもなりません」
青年に母へのプレゼントを買いたいと伝えると、カタツムリの粘液を使った「スネイルクリーム」を勧められた。3万6000ウォンという値段に、高くてためらっていると、「今日初めての客だから、2割引きにします」と言われた。
スネイルクリームを購入後、「50%引き」というチラシが貼ってある隣の化粧品店に入った。すでに午後2時を過ぎていたが、ここも筆者が初めての客だという。
ひとりで店番をしていた中年の女性店員はこうつぶやいた。
「ウチは2020年2月にオープンしましたが、開店休業状態です。4階建てのビルなので、賃貸料だけで月に1億5000万ウォン以上かかる。同僚たちもみなクビになり、今は私ともう一人が曜日を分けて勤務しています」
不動産評価機関の韓国鑑定院によると、明洞にある延べ床面積330平方メートル以下の小規模商店は2020年7~9月期の空室率が28.5%。つまり約10カ所に3カ所が空き店舗だ。6月までは空室率が0%台だったが、コロナが長期化するにつれ、明洞は急速に崩壊しつつあるのだ。
明洞駅近くのユニクロ国内初の旗艦店も1月31日をもって閉店する。2011年のオープン当日に20億ウォンを売り上げ、明洞の象徴的存在だったこの店もコロナ禍には勝てなかったのだ。
かつてメインストリートをぎっしりと埋め尽くし、色とりどりの商品や食品で観光客の目を虜にしていた露天商も、蜃気楼のように消え、まるでゴーストタウンのようである。もはやこの街に「明洞」という明るい名はふさわしくない。
閑古鳥の鳴く明洞
「所得主導成長」の罪
いま、韓国経済の苦境が加速している。根本的な原因は、発足から3年が経った文在寅(ムンジェイン)政権の失政にある。中でも、就任当初から重点を置いてきた「所得主導成長」の影響は大きい。これは、低所得層の所得を増やすことで消費を刺激し、企業の生産・投資・雇用拡大につなげ、ひいては経済全体が「好循環」になるという理論である。ところが政権の期待とは裏腹に、所得主導成長は、韓国経済を急激な不況に陥れた。
所得主導成長の柱となるのが最低賃金の引き上げである。日本でも、地方の所得を増やし、消費を活性化することを目指すとして菅義偉首相が所信表明演説で言及したが、韓国ではこれが裏目に出た。
2020年までに最低賃金を1万ウォンに引き上げるという公約によって、文政権の3年間で最低賃金は32.8%も上がった。非正規職の賃金労働者たちが不安なく生活できるようにするための政策だったが、「人件費の高騰→企業業績の悪化→投資萎縮→雇用減少」というサイクルで、韓国経済が悪循環のわなにかかってしまったのだ。長期化しているコロナ禍の中、財界からは最低賃金引き上げの凍結が要請されてきたが、結局、政府は2021年も1.5%の引き上げを決定した。
その結果、2019年までの文政権下の経済成長率は平均2.6%と低迷し、3.5%の李明博(イミョンバク)政権と3.1%の朴槿恵政権まで維持されてきた「3%成長」は崩れ去ったのだ。
中でも、基幹産業である製造業は競争力を完全に失っている。製造業生産能力指数は2018年に史上初めてマイナスとなり、2019年4~6月期にはマイナス1.6%まで下がり、1971年の統計開始以来、最悪の数値を記録した。コロナが襲った2020年には製造業4社のうち1社が廃業する危機に直面しているという統計まで出ている。
就職斡旋サイト「インクルート」が、2020年6月に531人の中小企業の社長を対象に実施した調査では、「下半期に倒産する可能性があるか」という質問に、25.9%が「ある」と答えた。倒産原因について「コロナ不況」とする答えが52.4%だったが、「コロナ以前にも経営状態が良くなかった」と答えた社も43.6%にのぼった。
自営業者も危機に瀕している。OECD(経済協力開発機構)の2017年の統計によると、韓国の雇用市場で自営業者が占める割合は25.4%でOECD諸国の中で6番目に高く、米国の6.3%、ドイツの10.2%、日本の10.4%などと比べると2~4倍だ。2010年代初めから本格的な低成長時代に入った韓国では、大企業や中小企業の雇用能力が低下し、生計型自営業者が持続的に増えていた。結果として過当競争となり、コロナ以前でも自営業者の所得は、賃金労働者の半分の水準まで落ちていた。
2018年に行われた勤労基準法の改正も自営業者を苦境に追い込んだ。非正規職であっても週15時間以上働くと、通常の給料とは別に「週休手当て」を支払うことが定められたほか、週60時間以上勤務した場合には、労使折半の国民年金など各種保険への加入も義務化された。
失政続きの文大統領
人件費が倍以上に
定年退職した男性たちが最も多く参入するコンビニ経営は、文政権の最低賃金の引き上げや改正勤労基準法によって大きな打撃を受けた業種の一つだ。ソウル市江西(カンソ)区でコンビニを経営するヒョンさんは定年退職後の2016年に1億5000万ウォンの創業資金で店を始めた。初年度はヒョンさん自身の平均月収が400万ウォンほどだったが、現在はアルバイトに支払う最低賃金の上昇で収入が激減した。
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source : 文藝春秋 2021年2月号