アメリカ合衆国の大統領に決まったバイデン下の主要官庁のトップには、軒並みという感じで女たちが登用されるらしい。だがヨーロッパでは、EU政府の首相、ヨーロッパ中央銀行の長、この時期の当番国であるドイツの首相と、すでに3人ともが女で占められているのだ。
こうなってはわれわれ女も、男女差別があったからこその不利などという、盾の向うに逃げこむことも許されなくなった。チャンスは与えられたのだ。それを活用できるか否か、のみが問われる時代に、決定的に入ったようである。つまり、男か女かには関係なく、「デキル」か「デキナイ」かが問われる時代に。
前回にこの欄で、すべての人間は男女の別なく、多少なりとも男性的要素と女性的要素を合わせ持っていると書いた。だが、右にあげた彼女たちともなると、求められる能力は男性的要素になる。女であるのになぜ?
日本語では楽曲を作る人を、作曲家と呼ぶ。しかし、器楽でも歌劇でも今なお国際語でつづいているイタリア語では、「コンポジトーレ(音を組み立てる人)」というのだ。当然だ。なにしろ歌手の声からヴァイオリン、チェロ、ピアノ等々のかもし出すさまざまな音を組み立てていくことでまったく別の楽曲を創り出すのが、真の意味での作曲家なのだから。ただし、昔から、大作曲家には女は一人もいなかった。
それは、この種の構成力となると、われわれ女は弱いからである。一つ一つの音を極わめる力はある。女でも、最高水準に達したピアニストやヴァイオリニストはいる。だが、数多くの才能を集めて各自にそれを発揮させ、しかもそれらが足し算ではなく掛け算になって何かを創り出す、総合力となると劣るのだ、昔から。
こうなったら、これまでのことなどはクヨクヨ考えずに、一気にみぞを飛びこすことですね、つまり仕事上では、男になることなのだ。
ただし、これで行くとしても新しい問題が出てくる。それは、本来持っている女の要素と仕事に対して発揮される男性的要素のバランスを、どこでどうとるか、の問題だ。
これに失敗すると、仕事面でうまく行かなくなるだけでなく、私生活でもギクシャクしてくる。その結果、精神のバランスを崩すほどになりかねないので、この問題は意外と女にとっては重要なのだ。それで今回は、この一事を巧みにクリヤーした例を紹介したい。なにしろこの女性は、当時では働らく女の中でも第1位と言ってよい女であったから。
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source : 文藝春秋 2021年2月号