世界一苦手なスポーツを仕事にしたら、人生変わった。

巻頭随筆

澤田 智洋 世界ゆるスポーツ協会代表理事
エンタメ 社会 スポーツ

「ええっ! スポーツが苦手な人っているんだ!」

 自分がスポーツ嫌いという話をしたら、こんなリアクションが返ってきたことがあります。相手は、元ラグビー部の「スポーツ強者」の友人です。彼からすると、「二度と体育はしたくない」「スポーツをすることから全力で逃げ回っている」「上司から無理やり誘われたフットサルに参加するくらいなら舌をかみちぎる」人がこの世にいるなんて信じられないのでしょう。

 でも、スポーツ庁の調査によると、成人した日本人で日常的に運動をしていない人は46.4%もいます(2018年)。中学生の16.4%が「スポーツ嫌い」というデータもあります(2017年)。

 そう、スポーツと縁遠い、あるいは苦手な「スポーツ弱者」は大勢いるのです。その代表格が僕です。足が遅い、肩が弱い、ボールと永遠に友達になれない。逆三拍子がすべて揃っています。20代のころは、この恥部をひた隠しにして生きてきました。

 ところが、あることがきっかけで「自分のこの弱さを仕事にしてみよう」と一念発起し、2015年に「世界ゆるスポーツ協会」という団体を立ち上げました。めざしているのは、スポーツ弱者を世界からなくすこと。「アスリートファースト!」が叫ばれるスポーツ格差助長時代において、すべての人をスポーツ好きに変えることがゴールです。そのために、ベビーバスケ、顔借競争、ブラックホール卓球、など90種類以上の新しいスポーツを仲間たちと発明してきました。

 現代スポーツでは、「より速い、高い、強い」人しか勝てません。でも、人の魅力はもっと多様です。気配りが上手な人、子守が上手な人、口笛が上手な人。こういう強みが生きるならば、スポーツ好きは今よりも増えるのではないでしょうか。

 例えば「イモムシラグビー」という、ゆるスポーツがあります。カラフルなイモムシのウェアをまとい、這ったり転がったりして遊ぶラグビーです。実はこれ、二分脊椎で車いすユーザーの上原大祐さんのために開発しました。ある日彼の家に遊びにいったら、車いすを玄関に置いて、家の中では這って移動していたんです。「ちょっとお茶とってくるね」。そう言うなり、上半身を左右に振りながら、シュシュシュッとまるで泳ぐように移動する上原さん。

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source : 文藝春秋 2021年3月号

genre : エンタメ 社会 スポーツ