「除染」の除染

巻頭随筆

玄侑 宗久 作家・僧侶
ニュース 社会 読書

 東日本大震災による福島第一原発の事故以後、新たに世に出た日本語に「除染」がある。それまでは専門家しか使わなかったはずだが、今では哀しいことに誰もが知る言葉になってしまった。

 ある辞書によれば、除染とは「被曝により皮膚や衣服や機器などに付着した放射性物質を取り除くこと」とあるが、おそらく多くの人々が思い浮かべるのは土壌の除染ではないだろうか。困難で長引くため、すっかり耳や目に馴染んできたはずである。

 除染の基準を巡ってはいろいろと揉めた。もともとICRP(国際放射線防護委員会)の基準が、二段構えになっていたからである。つまり、事故収束後の「復旧期」には空間線量が年間20mSv以下のなるべく低い線量を目指し、「平常時」には年間1mSv以下を被曝限度と定めていた(2007年勧告)。政府としては「復旧期」との認識で話を進めたかったのだが、住民避難の目安が年間20mSv以上だったから、PTAが黙っていなかった。

 小学校の校庭の除染基準を巡って多くの人々が声を上げ、遂には当時内閣官房参与だった小佐古敏荘氏が泣きながら会見し、除染基準は「年間1ミリ以下」という方向にほぼ確定した。後に小佐古氏は、「本当は年間5ミリ以下くらいが妥当だと考えていた」と述べたようだが、落花枝に上り難し。それ以後は、この年間20mSv以下と、1mSv以下という基準が、双つながら生き続けていくことになったのである。

 思えば除染作業というのは、じつに不思議な作業である。現状では危険だと感じた住民が家や庭の除染を頼むわけだが、そこにやってくる作業員たちは別に特別な防護服を着ているわけでもない。

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source : 文藝春秋 2021年4月号

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