いま自動車産業は、百年に一度の変革期にある。電動化・知能化といった技術革新の波が一気に押し寄せているからだ。新たなうねりに対応するために、各自動車メーカーでは莫大な研究開発費用を必死に捻出している。世界販売首位の座を堅持し、好業績を維持しているトヨタ自動車であっても例外ではない。自前で開発資金をひねり出すために固定費を削減し、損益分岐台数を下げることに注力している。
トヨタの研究開発投資額は年々増え続け、2023年3月期に1兆2416億円だったのが2027年3月期には1兆6000億円にまで膨らむ見通しだ。この巨大な投資額は日本企業ではトップレベル。こうした中、トヨタの研究開発部門を率いる中嶋裕樹副社長兼最高技術責任者(CTO)に、電気自動車(EV)や自動運転車の開発戦略の方向性、開発部門が抱える課題などについて聞いた(聞き手=井上久男)。
EV販売、2030年までに「350万台に届くとは考えていない」
――トヨタは「脱炭素」を推進するうえで、EVだけに固執せず、幅広い動力源を選択肢とする「マルチパスウェイ」を重視しています。一方で2021年には、2030年までにEV販売350万台を目指す計画を打ち出しました。電動化についても、2022年から30年にかけて8兆円を投資し、そのうち4兆円がEV関連です。しかしながら、米国では当初の想定に比べてEV市場が伸びていません。今後の目標に変化はあるのでしょうか。
中嶋 開発の視点において、EVは視野のど真ん中に置いていますし、具体的なプロジェクトも素早く進めています。しかし、マーケットの状況は様々な理由で日々変動します。たとえば米国で政権が変われば、二酸化炭素排出の規制が変わり、それに伴いEVの需要も落ちました。その現実に対応する必要があります。
トヨタには「基準台数」という考え方があります。その台数を生産するために、どれくらいの部品や材料、工数を用意しなければいけないか、どのぐらいの投資が必要なのか、どのような課題が生じる可能性があるのか、常にシミュレーションしています。協力企業や仕入れ先にも事前に基準台数を示しておかないと準備ができません。
そうした予測を繰り返しているので、正直なところ、当時掲げた350万台に届くとは考えていません。現状、目標に到達する可能性が下がってきているのは、否めない事実です。しかし、また何らかのきっかけで伸び幅がグッと上がるかもしれない。ですから、複数の基準台数を想定して対処しています。要は、経営環境の変化に合わせられるように、複数のシナリオを用意しているのです。
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