岡本かの子 情熱のひと

エンタメ 読書

作家の岡本(おかもと)かの子(1889―1939)は、20歳の頃に画学生の岡本一平と結婚。長男で後年芸術家となる太郎を産む。夫婦はかの子の愛人と同居するなど常識を超えた生活をした。昭和11(1936)年に「鶴は病みき」で文壇デビューするも、昭和14年に死去。作家の瀬戸内寂聴(せとうちじゃくちょう)氏は、伝記小説『かの子撩乱』を著した。

 

◎「昭和100年の100人」 記事一覧 文化人編 / リーダー編 / スター編 / 女性編

 私は作家として、明治以後の近代日本に生きた女性の中で、心惹かれる人たちの幾人かを書いている。田村俊子、岡本かの子、伊藤野枝、管野須賀子、金子文子、三浦環、平塚らいてう、樋口一葉、湯浅芳子等々である。作家、革命家、オペラ歌手、ロシア文学者などの、日本近代を切り開いた輝しい女性旗手の面々であった。この中からひとりあげるのは難しいが、すべて鬼籍に入ったこの人たちの中から、あの世に行った時、一番早く逢いたいのは誰かといえば、岡本かの子であろうか。かの子は二子多磨川の大貫家という素封家に生れ、乳母(おんば)日傘で育った。早くから文学的才能が芽生え、文学青年だった兄晶川の影響も受け、少女時代から、与謝野晶子に師事し、「明星」風の歌を創っていた。その頃から当時としては珍しく自由な恋愛をした。かの子のために自殺した学生もいたり、かの子と駆け落ちした青年もいた。

岡本かの子 ©文藝春秋

 画学生の岡本一平に求婚され、結婚し、太郎はじめ3人の子の母となる。一平は近代漫画家の鼻祖となり、天才的力量を発揮し、小説、随筆、インタビュー記事など、器用にこなし一代の人気者になる。宰相の名を知らずとも岡本一平の名を知らぬ者はないとまでいわれるスターぶりだった。

 しかし結婚生活は、性格と育った環境の相違からしっくりせず、一平は放蕩に走り、かの子は思いがけない苦労をする。淋しさの余り、かの子の歌に憧れた文学青年堀切重夫と恋に落ち、夫婦間の危機は深刻を極め、夫婦の言葉による「魔の時期」を迎える。かの子は心を病み、精神病院に長い入院をする。この時、一平は悟る所があり、自分が壊してしまったかの子を蘇生させ、その後はかの子を幸福にするため、あらゆる犠牲奉仕を自分に課そうと決意する。かの子は平塚らいてうの「青鞜」にも同人として名を列ねていたが、それは歌人としてであった。本当は小説家になるのがかの子の究極の夢であった。

岡本かの子(中央)、岡本太郎(左)、岡本一平 ©文藝春秋

 一平はかの子の希望を知ると、一つ屋根の下に嫉妬深いミューズの神は2人の芸術家を置かないと言い、自分の世間的名声も文才も犠牲にして、かの子の才能を開花させ、世に押し出すことを男の生甲斐とした。

年額プランがおトク!月あたり900円で全記事読み放題

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

オススメ!

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2002年2月号

genre : エンタメ 読書