昭和45(1970)年の大阪万博の象徴「太陽の塔」や「芸術は爆発だ」の名言で親しまれた芸術家・岡本太郎(1911〜1996)。交流があった片岡鶴太郎氏は、書や絵画などを始めてから理解した岡本の苦悩を語る。
岡本先生とご縁があったのは、昭和61年から63年にかけて放送されたバラエティ番組「鶴太郎のテレもんじゃ」(日本テレビ系)で共演させてもらったからです。小柄ですが、そう感じさせない存在感がありました。
楽屋に「どうも、片岡鶴太郎です」と挨拶に行くと、目を見開いた先生が「誰だ、君は?」と聞いてきます。「鶴太郎です」とまた答えると、今度は、「名前なんてどうだっていいんだ!」。カメラも回っていないのに、これを毎週やるんです。
次第に慣れてきた私がオチとして、サブMCだった井森美幸に「先生の頭を叩いてこい」とけしかけると、先生が思わずフフッと笑う。演出したキャラクターが解けた先生の素の表情が垣間見えるようで、その瞬間がめちゃくちゃ好きでした。
先生が作る虚像を面白がっていたのは確かですが、「名前なんてどうだっていい」という言葉には正しさも感じていました。人間は自然に「山」や「川」と名前を付けてそのようなものと納得しているけど、先入観から離れてありのままに見れば別の本質があるかもしれない。そんな深い問題提起にも聞こえたのです。
子供の絵を寸評する番組内のコーナーでは先生の眼差しは真剣そのもの。見たままを描ける子供の絵には本当の美しさが備わっているというのが、先生の持論でした。逆に「褒められたい」といった余計な計らいが働く大人の絵はやましい、と言うのです。「時代に合わせた〈綺麗〉と〈美しい〉は正反対のものだ」とも言っていました。
ただ、これらの言葉が実感として腑に落ちたのは、私が40歳を過ぎ、絵を描き始めてから。面白いおじさんである前に、すごい審美眼を持った人だと理解できたからです。
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