ヨーロッパで言われる「ワル」には、マイナスのイメージはない。できる奴、の俗な言い方にすぎない。かえって、いい奴と言われるほうが心配で、人は良いけれど仕事となると……の意味になるからだ。
コロナで大変なのにイタリアでは、上下両院ともで過半数を維持できなくなったことで、2年半つづいたコンテ内閣は総辞職した。
民主政に忠実でありたければ、国会は解散して総選挙に訴えねばならないところだが、コロナ騒ぎの行方すら見えない状況下での政治の空白を心配した大統領は、次の内閣の首相にマリオ・ドラーギを指名した。
政党に所属したことは一度としてなく、国会議員でもないこの人は、指名の2日後には早くも組閣を終えて上下両院の信任投票に持っていく。結果は、8割以上の票を得て信任。組閣人事を見るだけでも、国会に確かな勢力基盤を持っていないこの人が、どのように国会運営をしていくのかが想像できそう。
23人になる大臣のうちの8人が非政治家で、いずれもドラーギとは友人の仲。経済関連はすべて、同志で固めたのだ。
それ以外の15人は、大統領による指名直後から支持を明らかにしていた4つの党に配分された。ただしそれも、個々の人事は実績で決めたと言っている。そして女性登用に至っては、数は関係なく実績のみで決めた、と。
こうして、ローマ生れの73歳が率いる政府がスタートしたのである。
だが、大臣たちの顔ぶれを一見するだけならば、4党のうちの2党までが前内閣では与党だった「五つ星」と民主党で、首相をコンテからドラーギに変えた理由がわからない。
ところが理由はちゃんとあったのだ。
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source : 文藝春秋 2021年4月号