【前号まで】 三十歳のエリート医師である三上優人は一年後の心臓血管外科の専門医試験を見据え、大学の附属病院で仕事に励んでいた。そんなある日、教授の久保田壮一の依頼で、三上は、二年の間北海道の病院へ赴任することになる。年下の恋人を地元名古屋に置いて、函館の北にある小さな町・白砂野町にやってきた三上は、勤務先の白砂野町国保病院を見学した後、栄養士兼調理師の福士明穂が買い出しをするのにつきあう。
第一章(承前)
福士(ふくし)が産直から車を出しながら、三上(みかみ)に訊ねてきた。
「ほかに、行きたいところはありますか? 日用品とかがほしいなら、ドラッグストアに寄りますよ。大概のものは、そこにあります」
そう言われて、必要なものが頭に浮かぶ。ここの地域で使うゴミ袋、水回り用の洗剤など、こまごまとしたものだ。しかし、三上は福士の申し出を断った。
「大丈夫です。アパートに戻ります」
すぐに必要なトイレットペーパーや歯ブラシ、シャンプーなどの類は引っ越し用荷物に入れて持ってきていた。それ以外は、時間があるときにひとりで買いに行く。福士の、どうでもいい話に敢えて付き合う気はない。
福士はちょっと残念そうな顔をして、ハンドルを三上が暮らすアパートのほうへ切った。アクセルを踏みながら、三上に言う。
「なんかあったら、遠慮なく言ってくださいね。いつでもお手伝いしますから」
三上はふとあることを思い立ち、福士に顔を向けた。
「お言葉に甘えて、ひとつお願いしていいですか」
福士が嬉々とした様子で、聞き返す。
「なんでしょう」
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