ラファエルの羅針

第6回

柚月 裕子 作家

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エンタメ 読書

【前号まで】 三十歳のエリート医師である三上優人は一年後の心臓血管外科の専門医試験を見据え、大学の附属病院で仕事に励んでいた。そんなある日、教授の久保田壮一の依頼で、三上は、二年の間北海道の病院へ赴任することになる。年下の恋人を地元名古屋に置いて、函館の北にある小さな町・白砂野町の白砂野町国保病院で働き始めるも、三上は周囲に馴染むことに抵抗があった。そんなある日、若先生と呼ばれている男と出会う。

第二章(承前)

 早瀬(はやせ)の、若(わか)先生、という答えに、三上(みかみ)は思わず早瀬を見た。そしてすぐに、物療室のなかにいる男に目を戻す。

 三上の脳裏に、駐車場で見かけた派手な赤い車が浮かんだ。

 福士(ふくし)は車の持ち主を、若先生と言った。白砂野町国保病院から車で一時間ほどのところにある下江戸(しもえと)という町で、野呂(のろ)という理学療法士が整体院を開業しているが、若先生はそこの助っ人だと言っていた。

 ──あいつが。

 ふと隣に目をやると、早瀬が男を見つめていた。まっすぐな視線が気になり、改めて男に目をやる。

 身長は、百八十センチ近くある三上とそう変わらないように見える。もしかしたら、もう少し低いかもしれないが、細身の体躯が実際の身長よりも高く見せているのかもしれない。

 身体の線は細いが、半そでのスクラブから見える腕は、意外にも筋肉質だった。なにもせずにつく質のものではない。患者のリハビリに関わる者は、体力が必要だ。大人ひとりの身体を支えるには、かなりの力がいる。おそらく筋トレをしているのだろう。

 福士は年齢を五十前後と言っていたが、ぱっと見た限りではもう少し若く見える。だが、全身にまとっている落ち着いた雰囲気は、老成という言葉を感じさせた。顔立ちは、モデルのように整っているわけではないが、表情なのか、それとも過ごしてきた時間のなかで培われたものなのか、引き締まった印象を受ける。

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source : 文藝春秋 2026年10月号

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