■連載「日本人へ
第272回 ときには悪党になってみては?
第273回 西洋史上の「悪党」たち
第274回 西洋史上の「悪党」たち(その二)
第275回 軍事上の勝利と、政治的勝利のちがいについて
第276回 今回はこちら
『列伝』と題された著作を残したプルタルコスは書いている。ローマ人が、「パクス・ロマーナ(ローマによる平和)」と言われるほどの大を成せた要因の第一は、敗者の同化という彼らの考え方以外にはなかった、と。
ならば、このように考え実行した人々は、ローマ帝国が滅亡した古代と共に消え失せてしまったのか。いや、そうではないんですね。中世になって、ヴェネツィア共和国で再興されることになったのだから。ただし、大帝国を目指していた頃のローマ人はローマなりに、中程度の国にすぎなかったヴェネツィアはヴェネツィアなりに、対象もやり方もちがってはいたけれど。
海を前にした地に住む人々にとって、稼げる道は二つしかない。交易に従事するか、それとも海賊をするかの。ローマ帝国末期に襲来した蛮族から逃れて湾の中に住みついたヴェネツィア人も、あの頃からは五百年が過ぎた西暦一〇〇〇年、相当な数の船を持つ身には成っていた。また、交易立国でいくことも、はっきりとした国の方針に決めていた。
とはいえヴェネツィアは、アドリア海の最も奥に位置している。自国の船を、アドリア海を南下して地中海に送り出す力はあるのだが、そのアドリア海の東岸一帯には、ビザンチン帝国の弱体化をよいことに移り住んできたスラブ人が、海賊業に精を出していたのである。
この時期のヴェネツィア共和国の元首(ドージェ)に選出されたのが、いまだ三十代と若いオルセオロ二世。若きリーダーは、海賊一掃を決意する。政治が決めれば軍事も動くので、アドリア海東岸一帯に出没していたスラブ人の海賊退治は成功した。
だが、年齢だけではなく頭脳も若かった元首は、敵味方双方の血が流れた後は、頭を使うことを考えたらしい。海賊とは何人殺しても、生き残った者たちは必ず海賊業を再開するにちがいない。彼らには、海賊をするしか生きる道はないのだから。ならば、都市国家ゆえ人口は常に少ないヴェネツィアの国益を考えて、彼らにも生きる道を与えてやるほうが適策ではないか、と。
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