■連載「日本人へ」
第270回 外野席からの想い
第271回 「中卒の星」の声にも耳を傾けてみませんか
第272回 ときには悪党になってみては?
第273回 西洋史上の「悪党」たち
第274回 今回はこちら
前回で紹介したテミストクレスは、世襲によるメリットはまったくないところからスタートし、アテネにとってはたぐいまれな指導者になった男だが、今回とりあげるペリクレスはその反対。父親は、反テミストクレス派の有力政治家で、テミストクレスがしくんだ陶片追放で、つまり政敵排除策によって、追放された、四人のうちの一人。母親は、アテネ政界に人材を送りこむことでも知られた、アルクメオニデス一門の出。加えて、父母双方からの相続で相当な資産家。アテネには以前から、富の社会還元策として、劇場での悲喜劇の上演のスポンサーをさせる習慣があったが、ペリクレスも、成人後はそれをつとめている。このように、テミストクレスとは反対の極に生れ育ったペリクレスなのに、三十代で政治家としてスタートして以後は、テミストクレスが敷いた路線を、ほとんどそのままで継承していくのである。それどころか、より民主的な色彩を強めていくやり方で。
まず、外敵ペルシアは、テミストクレスが追い払ってくれていた。そのおかげで、ペルシアの支配下にあったエーゲ海の東岸一帯も、ギリシア側にもどっている。つまりアテネは、エーゲ海の制海権まで手中にしたというわけ。この状態をつづけていくには、これまたテミストクレスが現実化してくれていた、ギリシアの都市国家(ポリス)中最強の海軍力を堅持していくだけで足りた。
第二は、以前テミストクレスが大急ぎで建造したために完璧な出来ではなかった、アテネ市街と外港ピレウスの間の二十キロもの距離を結ぶ「通路」の完璧化。通路と言っても、両側が堅固な壁で守られている通り道。アテネにとっての仮想敵国は、すでに二度の前歴のある東方の大国ペルシアと、同じギリシア内にありながら南西から攻めてくる危険のあるスパルタの二国。しかも、この二国ともが陸軍立国。ゆえに、アテネが陸側から囲まれた場合でも、海からの補給路を常に確保しておくという、安全保障上の目的もあったのだ。
しかし、アテネ・ピレウス一体化というインフラの整備は、都市国家アテネの経済面でのいっそうの活性化に結びついていくことにもなるのだ。戦時には、海外からの補給路に。平時ともなれば、アテネで生産する手工業製品の海外への輸出という形で。
こうして、海軍力と経済力が増強されたアテネの主導で、「デロス同盟」が結成される。これが、エーゲ海に散る多くの島々の間での、安全保障を目的にした同盟でもあることは、誰の眼にも明らかだった。悪いことには、スパルタの眼にも明らかであったことだが。
こうして、ペリクレスがリードするアテネは、最盛期に入っていく。海軍力でも経済力でも、そして文化面でも。二千五百年後の現在でも世界中から見物客が訪れるパルテノン神殿は、この時代に建てられたのだ。では、この時代の主人公であったペリクレスは、どのような考えを持った政治家であったのか。同時代人である歴史家ツキディデスの筆になる、ペリクレスの演説から拾ってみることにしよう。
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