SNSが政治を揺るがす時代に日本はどうあるべきか
この6月中旬、高市早苗内閣の発信戦略の新機軸として注目を集めているX(旧Twitter)のアカウント「内閣広報官(色々投稿試し中)」が炎上した。
それは、フランスのリゾート地エビアンで開かれたG7サミットの一幕を映し出した画像の投稿だった。日程の2日目、本格的な会合が始まる日の朝、会議場前の芝生に設えられた壇上に首脳全員が集まるフォトセッションの時、首脳たちがそこかしこで会話する場面があった。投稿された画像は、高市首相を真ん中にフランスのマクロン大統領、カナダのカーニー首相の3人が笑顔で語らっているように見えるもので、「撮影前に近くの首脳たちと歓談」とキャプションがついていた。ところが、この模様を中継していた動画を見ると、会話はマクロン大統領とカーニー首相の間のもので、高市首相は参加しているようには見えない。しかし高市首相は2人に挟まれてなぜか破顔一笑しており、その一瞬を切り出すことで、「並みいる欧米の首脳たちと英語で親交を深める高市首相」という画像になっているのだ。
これを印象操作と指摘し、動画と投稿された画像を比較する匿名のアカウントがあり、400万ビュー以上見られているほか、識者がリポストするなど、この画像に対する批判の「拡散」が続く状態になっている。

このポストが意図的に情報操作を狙ったものかは後段の内閣広報官本人へのインタビューで判断いただきたいが、他のポストも含めて歴代内閣の発信として前例のないPR戦略に打って出ているのは間違いない。
このアカウントは、今年5月1日に「内閣広報官室試行」アカウントとして開設され、当初5月末までの時限的なものと標榜していたが、フォロワー数も10万人以上と伸び、6月1日からは、内閣広報官の佐伯耕三氏(51)本人が「中の人」とカミングアウトして発信を続けており、以前から存在した首相官邸アカウントなどのSNS、そして各種の記者対応やホームページなど従来型の発信を越えた情報戦略を展開している。共通点が目立つトランプ政権のSNS戦略との比較という観点から、高市内閣の発信を分析したい。
安倍元首相のスピーチライター
佐伯内閣広報官は、高市内閣発足後の今年1月、在ブリュッセルのJETRO事務所長から呼び戻されて就任した。経済産業省の出身で、二度目の安倍晋三内閣の時、40代前半にして「課長経験さえない首相秘書官」として抜擢され、古典に通じる教養を駆使して、首相のスピーチライターを務めていた。今回の内閣広報官は次官級の役職とされ、局長経験のない中での抜擢で、「官邸関係者は『佐伯氏には「日本版レビット(筆者注・ホワイトハウス報道官)」のような役割が期待されている』と解説」(6月5日、産経新聞)とも報じられている。
では、そのトランプ政権の発信戦略の最新事情を見てみよう。
トランプ大統領というと、その政策も人柄も無軌道なトラブルメーカーという印象で語られることが多いが、PR情報戦の面からは1期目と異なり、洗練された戦略をとっている。SNS戦略も多様な発信源が役割を分担し、それらが有機的に相互作用して、メッセージの輪を広げるシステムができあがっている。
その輪の中心にいるのがトランプ大統領自身だ。2021年1月の連邦議会議事堂襲撃事件を扇動したとして、Twitter(現X)から追放されたことから、Truth Socialという自前のSNSプラットフォームを作り、1日10件以上ものテキストや画像を発信している。自らをキリストになぞらえるような常軌を逸した画像や、記者や政治家などの気に入らない発言に対する下品な「罵倒」も多い一方、重要政策を最初にここで発表することが多いため、世界中が目を離せない状態だ。
SNSだけでなく、トランプ大統領は、対面での記者対応の発信量もずば抜けて多い。記者会見はもちろん、大統領執務室でのイベント、専用機の機内、海外の首脳との会談時など、ほぼ毎日記者の質問に答えている。さらにはお気に入りのFOXニュースを始め、さまざまなメディアの単独インタビューに答えることも多い。それだけでなく、総合格闘技などスポーツイベントに登場し、マクドナルドのハンバーガーをデリバリーで注文して受け取って見せ、エルビス・プレスリーの邸宅を訪ねる、など「絵になる場面」を精力的に創出している。これらすべてが「ネタ」となり、ホワイトハウスの各種SNS発信を通じて情報の拡大再生産が行われるのだ。
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