裏切りと涙のサナエ劇場 奈良「鉄の女」の原点

高市早苗研究 第3回

甚野 博則 ノンフィクションライター

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31歳の若さで国政に挑戦した高市だったが…

 “奈良のドン”の右腕だった男性の屋敷は、奈良市の中心部から車を20分ほど走らせた先にあった。

 門扉をくぐり、庭を抜けて屋敷に上がると、リビングに通される。勧められるまま椅子に腰かけると、彼は筆者の方を指してこう言った。

「高市さんは、最初の選挙の時から何度もここに来ていました。その椅子に座って」

 男性によれば、高市は奈良政界の情報を得るため、この屋敷に通っていたという。

 ここを訪ねる前から気になっていたことがあった。「高市は選挙に出るにあたり、建設会社を紹介してほしいとドンの側近を頼った」と関係者から聞いていたのだ。実際にどうだったのか、目の前の本人に尋ねてみると、男性はこう口にした。

「それはやはり(高市に)お金がないからです」

「奈良の女です。大和の国で育ちました」

 昨秋、自民党総裁選の所見発表演説会で、高市早苗はこう切り出した。

 高市の演説はここから、奈良時代に万葉集を編纂した歌人・大伴家持に触れながら、日本の伝統を守ると訴えかける。この総裁選で、彼女は自民党総裁となり、やがて念願の首相の座を手にした。そして現在、高市は英国のサッチャー元首相を念頭に、自らを「日本の鉄の女」と称している(英フィナンシャル・タイムズ紙電子版への寄稿、6月12日付)。

「奈良の女」高市首相 Ⓒ時事通信社

 日本初の女性宰相を育んだ古都・奈良。ただ、県内では多くの自民党議員が、国会議員や奈良県議などを親にもつ、いわゆる世襲議員だ。とりわけ世襲の多い土地柄で、サラリーマン家庭出身の彼女はいかに奈良政界を生き抜き、国会議員として這い上がってきたのだろうか。

串揚げ屋で泣いた日

 高市が神戸大学卒業後に門を叩いた松下政経塾を卒塾し、奈良市内の実家へ戻ったのは、1989年3月。高市が28歳の頃だ。自著『30歳のバースディ』でこう書いている。

〈働き口のアテもなく、奈良の両親のもとに転がり込んだ。いま振り返ってみると、この時期が一番不安定で、客観的に見て一番苦しい時期だったと思う〉

 高市は松下政経塾在籍中に、米国下院議員のパトリシア・シュローダーの事務所で約1年半にわたり勤務した。松下政経塾や米国での経験を伝えるべく、渡米前に知り合った人々に講演活動の売り込みをかけたという。だが、高市は講演を聞きに来た聴衆の声を自らこう代弁している。

〈出てきたのは二〇代の小娘。こんなガキの話を聞くために、わざわざやって来たのか。やれやれ……〉(前掲書)

 ところが帰国からわずか1カ月後の89年4月、高市は突然、テレビ朝日の深夜番組『こだわりTV PRE★STAGE』に出演する。

 同番組で水曜日の放送を作家兼プロデューサーとして任されていたのが、現在、茨城大学特任教授を務める村上信夫だ。番組ではすでに、クラリオンガール出身で青山学院大学の4年生だった蓮舫と、タレントの飯干恵子(現・飯星景子)の出演が決まっていた。村上が話す。

「当時は日本社会党委員長を務めた土井たか子さんの『おたかさんブーム』前夜。テレビ業界でも、女性が政治を語るのが流行っていたんです。だから、番組にはもう一人、政治を語れる女性に出演してもらおうとなった」

 だが、過去にテレビ出演歴のある女性では新鮮味がない。そんな中、村上の目に留まったのが、政治をテーマに雑誌に寄稿をしていた高市だった。

「松下政経塾出身でシュローダー氏の事務所にもいたなら政治を語れるだろうと思い、プロフィールにあった勤務先の短大(編集部注・日本経済短期大学、後の亜細亜大学短期大学部)に電話しました」(同前)

 後日、局のプロデューサーと短大まで会いに行った村上は、高市について「関西弁の少しおっとりした人」という印象を抱いた。本人も乗り気で、番組出演はすぐに決まった。

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続きの内容は…

高市氏はいかに若くして政治家への階段を駆け上がっていったのか。約12,000字の本稿では、国政に挑戦する前後の高市首相について詳しくレポートしています。 ・キャスターに起用したプロデューサーが語った当時の姿 ・高市氏に「妹みたいに思っている」と言われた女性の告白 ・“恩人”が怒りを露わにした“裏切り” ・奈良のドンと呼ばれた男の側近が語った高市氏との関係

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source : 文藝春秋 2026年8月号

genre : ニュース 社会 政治