■連載「日本人へ
第271回 「中卒の星」の声にも耳を傾けてみませんか
第272回 ときには悪党になってみては?
第273回 西洋史上の「悪党」たち
第274回 西洋史上の「悪党」たち(その二)
第275回 今回はこちら
現代でも各国で使われている「平和」を意味する言葉のすべては、古代のローマ人の言語であったラテン語の、「Pax」(パクス)を語源にしている。イタリア語では「Pace」、スペイン語では「Paz」、フランス語では「Paix」、英語になると「Peace」。日本でも、「ピース」と名づけたタバコが作られたではないか。
長く続くからこそ平和、という考えは、ローマ人が創り出した概念であって、ギリシア人ではなかったからである。
あらゆる知的概念を創造したギリシア人だが、平和という理念だけは創り出せなかった。ギリシア民族にとって戦争をしていない状態とは、いずれは再開されるまでの間の、つかの間の休戦にすぎなかった。オリンピアの地で開かれる競技会が、このギリシア人にとって重要な意味を持ちつづけていたのも当然だ。四年に一度、しかも競技が行われる前後のわずか一カ月の間にしても、休戦期間ではあったのだから。
ところが、同じ古代に生きた民族なのに、ローマ人となるとちがってくる。なぜかローマ人には昔から、敗者となれば討ちのめすばかりではなく、その人々とも融合していく傾向があった。ローマ内部の階級闘争の相手でしかなかった下層民との融和が成ったのを記念して、「コンコルディア」(融和を司る女神)に捧げた神殿まで建てている。地下水でもあるかのように続いてきたこの伝統を、国内だけでなく国外にも広げたのがユリウス・カエサルである。この彼のやり方を、同時代人たちは、「クレメンティア・カエサリス」(カエサルの寛容)と呼ぶようになる。
「寛容」とした日本語訳は、誤訳ではない。辞書にも、心が広くおおらかで他の人々もよく受け入れること、と説明しているのだから。しかし、言語には意訳もあるのだ。だから、「カエサルによる寛容」は、「カエサルによる政治」と考えるのも可能、ということ。
十年も費やしたガリア戦役で、しかも最後のアレシアでは五倍以上もの敵に対しながら大勝したカエサルは、今ならばフランス全土にベルギー、オランダ、スイスをふくめた広大なガリアの全域を制覇したことになる。軍事的には、文句もいえない勝者になったわけ。だが、ここから彼は、武人から政治家に変貌する。反ローマに起って闘ったガリア兵の全員に、それぞれの故郷にもどって住みつづけることを認めたのであった。
年額プランがおトク!月あたり900円で全記事読み放題
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
オススメ!
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
電子版+雑誌プラン
18,000円一括払い・1年更新
1,500円/月
※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2026年9月号


