【前号まで】 三十歳のエリート医師である三上優人は一年後の心臓血管外科の専門医試験を見据え、大学の附属病院で仕事に励んでいた。そんなある日、教授の久保田壮一の依頼で、三上は、二年の間北海道の病院へ赴任することになる。年下の恋人である寺島奈々を地元名古屋に置いて、函館の北にある小さな町・白砂野町にやってきた三上は、引っ越しを済ませると、看護師の早瀬翠の案内で、勤務先の白砂野町国保病院を見に行くことになった。
三上(みかみ)を乗せた車は、上ってきた坂をゆっくりと下っていく。
もともと無口なのか、人見知りなのか、早瀬(はやせ)は運転中も口を閉じたままだった。無言でハンドルを握っている。
車内の空気が重く、三上は少しでも軽くするために早瀬に話しかけた。患者はどのような人が多いのか。町の住人か、それとも遠方からもやってくるのか。このあたりの人たちは、どこへ買い物に行くのか、休みの日に遊びに行くところはどこなのか、など思いつくまま訊ねる。
三上の問いに早瀬は、抑揚のない声で短く答えるだけだった。患者の大半は町の住人や近隣の自治体の者で、それぞれの駅や決まったバス停から、病院までのバスに乗ってやってくる。その八割近くが高齢者だ。
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