松山英樹 世界を制した「聞く力」

丸山 茂樹 プロゴルファー
エンタメ スポーツ
アジア勢初のマスターズ制覇。私は涙が止まらなかった

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▶︎松山がすごいのは、練習で出来たプレーを試合で再現する能力が高いところ
▶︎今回、優勝できたのはコンビネーションがぴたりと合ったことと、「チーム松山」の貢献があったからではないか
▶︎色々な人に話しかけて、多くのことを吸収する。見たり、聞いたりしたことを吸収して結果に結びつけるのが本当の強さ。松山はそれができる
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丸山氏

日本スポーツ史に残る快挙

 優勝者へ贈られるグリーンジャケットを着た英樹が、表彰式で両手を突き上げ、満面の笑みを見せたときぶわっと涙が出てきました。

 あれが彼の素の表情なのです。あまり笑顔を見せないとか、口下手だシャイだと言われていますが、私と個人的に食事をしたり、たわいもない話をしたりしているときには、あの屈託のない笑顔を見せる。そうした彼の姿を知っているだけに、

「いい笑顔だな。ようやく松山英樹の本当の姿を、ファンの皆さんにもお見せすることができたな」

 そう思うと、感情を抑えることができませんでした。

 プロゴルファー松山英樹(29)が日本スポーツ史に残る快挙を達成した。米オーガスタで開催されたゴルフのメジャー大会「マスターズ・トーナメント」で、日本人男子として初めて海外メジャーで優勝。マスターズ制覇はアジア勢としても初となった。

 彼が優勝パットを決めた瞬間、私は興奮のあまり頭が真っ白になってしまいました。目の前のテレビには中嶋常幸さんが感極まっている映像が流れていましたが、私の耳には何の音も入ってきませんでした。

 私は呆然としながら、LINEに、「おめでとう」と打ち込んで、英樹へ送りました。

 そのまま中継を観ていると、優勝を決めた後も表情を崩していなかった英樹が、彼を支える「チーム松山」の面々の顔を見た途端に、笑顔をみせた。その姿は皆さんもご覧になって、感動したのではないでしょうか。

 私もウルウルときました。そこへ表彰式のあの笑顔です。思わず「泣いたよ」と、2通目のメッセージを送りましたよ。

 その後、すぐに英樹から「やりました」と電話があったのですが、自分が何を言ったのか、まったく覚えていません。スマホの通話時間をみると、2分17秒、話していたのですが。

 4年ちかく優勝から遠ざかっていたことで、本人は相当、悔しい思いをしてきました。それを知るだけに、私も興奮して記憶が飛んでしまったのです。

 唯一、残念だったのは18番のグリーンへのぼるウイニング・ロードを笑顔で歩けなかったことでしょうか(笑)。マスターズといえば、多くの人の脳裏に浮かぶのは、最終ホール、トップに立つ選手が満面の笑みを浮かべながら、パトロン(観客)に迎えられて、グリーンまで歩くシーンですよね。私も子どもの頃にテレビで観たトム・ワトソンの笑顔を今でも覚えています。

 次にマスターズで勝つときは、笑顔満開の英樹が、グリーンまでのぼっていくシーンが見られるのではないでしょうかね。

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松山英樹

土壇場での強さ

 松山は初日、首位と4打差の2位。2日目は3打差の6位。3日目の後半に猛チャージをみせ、2位へ4打差をつけトップに立った。首位で迎えた最終日、1番ホールでのティーショットを右の林へ入れてしまう。

 最終日、最初のスイングを観て、「あ、振り遅れた」と思いました。絶対に緊張するので、これは仕方がない。ゴルフにはミスがつきもの。そのミスの数を、試合に出場している選手の中で、いちばん少なくすることができれば勝てるのです。

 勝利をぐっと引き寄せたのは、1番ホールをボギーで収めた後の、2番ホールのティーショットだと思います。ドライバーでフェアウェイの真ん中に持っていった。

 きっと私であれば、1番ホールと同じような右へ行く球を打ってしまうでしょう。2番ホールは左へ入ったら終わりですから、それが嫌で右へ行ってしまう。もしくは、それを避けるために、ドライバーではなく、アイアンなどで刻むと思います。だから彼がドライバーを手に取ったのを見て、「よく持ったな」と、ちょっと驚きました。

 しかも、ドライバーでフェアウェイの真ん中に打ち抜いて、バーディーをとった。そのプレーを見て、私は「よし、これで優勝への第一関門を突破したな」と感じました。このバーディーで嫌な気持ちをリセットできたことが大きかった。

 勝負はフロントナイン(前半9ホール)だと思っていましたが、他の上位勢が手こずっていた3、4、5番ホールもパーで切り抜けた。圧巻は5番ホールでの約5メートルのパーパットです。外れたら試合の流れが変わる場面できっちり入れた。

 運もありました。13番ホールのセカンドショットはグリーンを外れましたが、ツツジの繁みに入らず手前で止まった。その後のグリーンの外からの3打目もすごかった。普段ならともかく、あの土壇場でOKバーディーに近いショットが打てる。解説の宮里優作が「なんであんなショットが打てるんですかね」と圧倒されていたほどの1打でした。

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練習のプレーを試合で出せる

 彼がすごいのは、練習で出来たプレーを試合で再現する能力が高いところです。

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source : 文藝春秋 2021年6月号

genre : エンタメ スポーツ