コロナによって、おうち時間が増えるようになってから1年以上が経ちますが、元々食べ歩きが趣味だった僕にとって、自粛を余儀なくされたこの1年間の〈食の〉新しい生活様式は、一言で言うならば「迷走」でした。
コロナ禍になってまず最初に始めたのは、家での「蕎麦打ち」。いきなり蕎麦打ちかと思うかもしれませんが、有り余る時間をおうちの食生活に活かそうと思ったら、作る方に時間をかけるしかないのです。食べるのは意外とすぐに終わってしまいます。ローマ時代の貴族でもない限り、人間4時間も5時間も食べ続けられません。ということで蕎麦粉を取り寄せて、蕎麦打ちを始めたのですが、これが実に面白い。そんなに本格的な道具がなくても、それなりに作れるので、毎朝欠かさず蕎麦を打つようになりました。しかし2週間ほどして、ある単純な結論に気付いてしまったのです。それは「お店で食べた方が美味しい……」ということ。当たり前の話です、たかだか数週間で蕎麦職人と同じ蕎麦を打てる訳がありません。どうがんばってもお店とはクウォリティが違いすぎるのです。結局、蕎麦打ちという新しい生活様式は、根付くことはありませんでした。
次に試したのがオムレツ作り。ホテルのブッフェでシェフがフライパンをトントンと叩いて作ってるあれです(あれってちょっと憧れますよね?)。早速オムレツ専用のフライパンを購入し、毎朝のルーティンとして始めたのですが、これもまた面白い。調理というより運動というか、手の動きのコツなんで、やっていて楽しいんです。これを毎日動画で撮影してYouTubeにアップしたら人気出るんじゃないか? とまで思い、実際にスタッフに番組ロゴまで作ってもらいました。しかし、ここにもまた壁が。オムレツってそんな毎日何個も作れないんですよ。それなりのオムレツを作るには卵を最低でも2つ、できれば3つ使います。こちらもそんな毎日大量に卵を食べていられないので、1日に作れても1個。悲しいかなそれだと全然上達しないんです。ということで、これもまた挫折です。
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source : 文藝春秋 2021年7月号