私は怒っている。いや、正確に言えば、私の中の人が怒っている。
7月から上演される舞台「森 フォレ」に出演する。
私が演じるのは、5年前に母を亡くした少女。偶然にも母と同じ形をした、第2次世界大戦の被害者の頭蓋骨を所持する古生物学者と出逢い、自分の生まれたルーツに隠された謎を解き明かす為、過去を辿りながら旅をしていく物語だ。母は、生き延びる為には堕胎を選択しなければならなかったが、当時起こった悲惨な殺人事件をきっかけに彼女を産むことを決意する。生きることに重い鎖をかけられた彼女は自分に、周囲に、変えることのできない過去に怒りをぶつける。乱暴な言葉で悪態をつく。
私は普段から怒りという感情をあまり持つ方ではない。怒りや憎しみからは何も生まれないと思っているから。しかし、このお仕事をしていく上で避けては通れない。実際の人生は誰しも波がある。お芝居でも、ぎゅっと凝縮された短い時間に一人の人の人生を生きる。特に、人が人生を変えていく瞬間は大事にしたい。喜びや感動にゴールする為にはマイナスな感情を無視してジャンプはできない。怒りや悲しみは必要不可欠なのだ。これまでも役によっては勿論表現してきたが、ある役者さんに「怒るの下手だねぇ。本気で怒ったことないでしょ」と笑いながら言われたこともある。「はい、ないです!」と何故か自信満々に答えてしまうのもある意味自分の強さだと思ってしまうのだが。そう、私は怒ることがとにかく苦手なのだ。上手い下手で分けることではないし、好きで怒る人なんてそういないとは思うけれど。
そんな私が、いま役を通して怒りと友達になれそうだ。上手くいけばもう一線超えて親友に。過去という自分ではどうにもならないことに対しての彼女の怒りは、激しく理解できる。怒りをぶつける対象は違えど、彼女が怒れない私の代わりに怒ってくれているようにも思える。
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source : 文藝春秋 2021年7月号